元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
「嘘吐け。性格も学力も魔力も、もっと言えば見た目すら抑えてるだろ。わざわざ自分に魔法まで掛けて隠してるくせに」

「…………っ!」


 殿下がボソリとわたしの耳に囁きかける。ぞわっと背筋が震えて振り返れば、彼はじっとわたしのことを見つめていた。


「……どうして分かったんですか?」


 おさげ髪に眼鏡――――それだけでも、ある程度自分を隠すことはできる。けれど、それだけじゃ何だか心許ない。
 だからわたしは、周りの認識を阻害するための魔法を自分自身に掛けていた。

 平凡に。
 普通に見える様に。


(これまで誰にもバレ無かったのに、よりによって殿下に見破られるなんて)


 そう思うと、悔しくて堪らない。わたしは唇をキュッと引き結んだ。


「俺の方がお前よりも魔力が強いからだろ。見えるんだよ、そういうの。逆に言うと、今までお前よりも魔力が強い奴が周りにいなかったってだけだと思うけど」


 殿下はそう言って、気難しい表情でわたしを見下ろしている。


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