元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
「それじゃあ、またねザラ」


 そう言ってオースティンは踵を返す。人ごみに紛れるように身を翻しながら、あっという間にわたしの視界から消えてしまった。


(オースティンは一体なにを考えているの?)


 わたしは魔法で自分の姿を消すと、そっとオースティンの後を付けた。
 オースティンは曲がり角を曲がると同時に、わたしと同じように魔法で姿を消す。けれど、そこは魔力の差。わたしからは、オースティンの姿が見えたままだ。


(こんな風に姿を消して進むなんて)


 何かを企んでいるとしか思えない。

 やがて、オースティンは校舎の壁を魔法ですり抜け、道ならぬ道を進み始めた。歪んだ異空間。一歩間違えたら抜け出せなくなる危険を孕んでいる。慎重に後をつけると、道の先には、更に大きな異空間が広がっていた。

 テーブルを囲んだ数人の魔法使いが、一斉にこちらを見つめる。


(見えてない、よね?)


 見る限り、わたしよりも魔力が強い人間はここにはいない。けれども、容赦なく浴びせられる鋭く冷たい視線に、わたしは密かに息をのんだ。


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