元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
***


「まさかオースティンが、こんなことを考えているなんてね」


 結局、わたしは身柄を拘束されてしまった。オースティンは邪悪な笑みを浮かべ、地面に座るわたしを見下ろしている。


「……ザラは俺のことを平凡な男だと思っていたみたいだけど、それは違う。
俺は力のある魔法使いだ。自分をこんな境遇に置いておくなんて耐えられない。君がどうして普通であろうとするのか、俺にはちっとも理解ができなかったよ」


 まるで、わたしの考えを見透かすかのような言葉。オースティンといれば平凡な人生が送れるかもしれないなんて、そんなことを考えていたのが馬鹿みたいだ。


(実際、わたしは馬鹿だ)


 だって、オースティンがそういう人だって、ちっとも見抜けなかった。見る目が無いからこうして危険な目に合っている。上辺ばかりを見て、物事の本質を見極めようとしなかった。
 だから、こうして痛いしっぺ返しを喰らっているのだ。


(結局、わたしは幸せになんてなれないのかな)


 そもそも、『幸せ』って何だっけ?
 そんなことを考えてみる。


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