元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
***


 月日は流れ、わたしたちは学園を卒業した。

 あの日以来、自分らしく生きるようになったわたしは、魔術科を首席で卒業し、目標としていた魔法省で働くことが決まった。

 前世でわたしを翻弄した官僚になるなんて皮肉なことだけど、自分が何をしたいか考えたときに、国や誰かのために苦しんでいる人がいたら、そっと手を差し伸べられる人間になりたいなぁって。そう思っていたから、指名を受けたときは本当に嬉しかった。


 殿下とはあれっきり……ってことはなく、生徒会の任期が終わるまでの間、変わらず親しくしていた。

 皆の前での殿下は、相変わらずキラキラした完璧な王子様で。
 けれど、わたしたちの前でだけ見せてくれる本当の彼に心をときめかせたのは、学生時代の良い思い出だ。


『じゃあな、ザラ』


 つい先日、卒業式の日に顔を合わせた殿下は、そんな風にわたしに声を掛けてくれた。

 殿下はこれから、わたしとは全く別の道を進む。第二王子として国のために働く彼は、一官僚のわたしにはとても手が届かない人間になってしまう。


『殿下も、お元気で』


 最後まで特別な関係に進展することは無かったけれど、わたしが殿下を想う気持ちは本物だった。


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