元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
「偽りじゃなく、自分らしく生きたいって俺も思った。言いたいこと言って、やりたいことやって、行きたいとこ行って生きてみたいなって」


 それはいつだったか、殿下がわたしに打ち明けてくれた願い事だった。叶うことは無いって諦めたみたいな笑顔が印象的で、悲しく思ったことを今でもしっかり覚えている。


「殿下……」

「あと、もう一つ理由があるんだけど」


 殿下はそう言って大きく深呼吸する。繋いだ手のひらから、殿下の緊張が伝わってくる。わたしの心臓もバクバクと盛大に鳴り響いた。


「自分らしく生きて、それで好きな女を幸せにできたら――――最高に幸せだろ?」


 王子様らしさの欠片もない物言いと笑顔。わたしの瞳に涙が溜まる。


「殿下は……エルヴィス様は馬鹿です。大莫迦です」

「うん、俺もそう思う」


 言いながら、エルヴィス様はわたしのことをキツく抱き締めた。
 わざわざ王籍を捨てて、臣下として生きていくなんて、そんなこと普通は考えない。けれど、彼らしいなぁって思ってしまうあたり、わたしは相当毒されている。


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