元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
「ザラ――――おまえが望む平凡とは違うかもしれないけど」


 エルヴィス様はそう言ってわたしの涙をそっと拭う。ぶっきら棒で完ぺきとは言い難い手つきだけど、わたしはこの手が好きだ。エルヴィス様が大好きだ。

 止め処なく流れ落ちる涙をそのままに、わたしはエルヴィス様を見つめた。エルヴィス様は頬をほんのりと紅く染め、はにかむ様に笑っている。
 本当に平凡とは程遠い、綺麗で温かな優しい笑顔。心臓がドキドキとときめいて、とても普通になんてしてられない。


(だけど、それで良い)


 求めていたのは平凡じゃなかった。

 わたしはエルヴィス様を見上げながら、大きくゆっくりと頷いて見せる。エルヴィス様はもう一度大きく息を吸い込むと、わたしの瞳を覗き込んだ。


「とんでもなく幸せにしてやるから、俺と結婚してくれる?」


 エルヴィス様の言葉に、わたしたちは顔を見合わせて笑う。

 きっと、エルヴィス様の言う様に、これから先のわたし達を待ち受けるのは、彼と出会った頃に想像していた幸せとは違う――――けれど、とびきり幸せな毎日なんだと思う。


「はい、喜んで!」


 勢いよく答えながら、わたしはエルヴィス様の胸に飛び込んだのだった。
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