この世界に最後の花火を
プロローグ
昔から病院の薬臭い匂いが大嫌いだった。この世で一番『死』に近い場所だからかもしれないが、小さい頃から僕はこの場所だけは近寄りたくないくらいダメだった。
でも、今いるこの場所だけは病院の中でも例外なんだ。この世で一番大好きな愛しい僕の彼女が眠っているから。
真っ白すぎる病室に眠っている彼女。この部屋と同化してしまいそうなほど、きめ細かい白い肌が窓から差し込む太陽の日差しを拒んでいるかのよう。
白装束に包まれた病院服が、彼女にはドレスのようにも見えてしまうほど美しい。
本当に余命がもうすぐなのか疑わしいくらいどこも病気的には見えないのが不思議。
「火花・・・やっと会いに来れたよ・・・突然いなくなったりしてごめんね」
ベッドの横に置かれている心電図の音が、やけに鮮明に僕の耳に聞こえてくる。僕と彼女しかいない静かな空間。そして、これが僕らの最後の時間なのだと。
窓の外からは蝉が夏の始まりを告げているのか、元気に今日も鳴き続けているのを聞くとつい思い返してしまう。
僕と彼女が出会ったのも今日のような蝉が鳴いていた夏だった。僕の瞳に印象的に映った彼女が懐かしい。
思い返すたびに僕の目から一滴、また一滴と涙がフローリングの床に溜まっていく。涙が天井から光る蛍光灯の光を反射して透明に見える。
「大好きだよ、火花・・・できるなら今、目を覚ましてほしい。もう一度君の笑った顔が見たかったな・・・」
蝉の鳴き声が僕の独り言をかき消してしまう。誰にも聞こえないように、ボソッと眠っている彼女の耳元で囁く。
「・・・・・」
彼女の眉がピクリと動いた気がした。多分気のせいだろうが、内心は彼女に聞こえてほしかったのかもしれない。
そっと眠っている彼女の顔に近寄り、唇に口づけをする。何度か彼女としてきたが、こんなに熱がこもっていないキスは初めてで、その唇の冷たさが余計に僕の心を苦しめる。
わかっていたんだ...こうなるってことくらい。でも...最後くらいもう少しだけ、寝たままでいいから彼女と時間を過ごしていたかった。
ポケットに入っている携帯が、僕に彼女と過ごす時間の終わりを告げるかのように震え出す。
「それじゃ、僕はそろそろ帰るよ・・・」
ベッド横に置いてあった椅子から立ちあがろうとするのと同時に、病室のドアがノックされた。
急いで目から溢れる涙をシャツの袖で拭いたが、止まる気配は一切なかった。自分の体なのに、涙を制御することだけはどう頑張っても僕には無理だったらしい。
ベッドに眠ったままの姫と、椅子に座りながら眠っている姫を眺めている僕の一年がもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
でも、今いるこの場所だけは病院の中でも例外なんだ。この世で一番大好きな愛しい僕の彼女が眠っているから。
真っ白すぎる病室に眠っている彼女。この部屋と同化してしまいそうなほど、きめ細かい白い肌が窓から差し込む太陽の日差しを拒んでいるかのよう。
白装束に包まれた病院服が、彼女にはドレスのようにも見えてしまうほど美しい。
本当に余命がもうすぐなのか疑わしいくらいどこも病気的には見えないのが不思議。
「火花・・・やっと会いに来れたよ・・・突然いなくなったりしてごめんね」
ベッドの横に置かれている心電図の音が、やけに鮮明に僕の耳に聞こえてくる。僕と彼女しかいない静かな空間。そして、これが僕らの最後の時間なのだと。
窓の外からは蝉が夏の始まりを告げているのか、元気に今日も鳴き続けているのを聞くとつい思い返してしまう。
僕と彼女が出会ったのも今日のような蝉が鳴いていた夏だった。僕の瞳に印象的に映った彼女が懐かしい。
思い返すたびに僕の目から一滴、また一滴と涙がフローリングの床に溜まっていく。涙が天井から光る蛍光灯の光を反射して透明に見える。
「大好きだよ、火花・・・できるなら今、目を覚ましてほしい。もう一度君の笑った顔が見たかったな・・・」
蝉の鳴き声が僕の独り言をかき消してしまう。誰にも聞こえないように、ボソッと眠っている彼女の耳元で囁く。
「・・・・・」
彼女の眉がピクリと動いた気がした。多分気のせいだろうが、内心は彼女に聞こえてほしかったのかもしれない。
そっと眠っている彼女の顔に近寄り、唇に口づけをする。何度か彼女としてきたが、こんなに熱がこもっていないキスは初めてで、その唇の冷たさが余計に僕の心を苦しめる。
わかっていたんだ...こうなるってことくらい。でも...最後くらいもう少しだけ、寝たままでいいから彼女と時間を過ごしていたかった。
ポケットに入っている携帯が、僕に彼女と過ごす時間の終わりを告げるかのように震え出す。
「それじゃ、僕はそろそろ帰るよ・・・」
ベッド横に置いてあった椅子から立ちあがろうとするのと同時に、病室のドアがノックされた。
急いで目から溢れる涙をシャツの袖で拭いたが、止まる気配は一切なかった。自分の体なのに、涙を制御することだけはどう頑張っても僕には無理だったらしい。
ベッドに眠ったままの姫と、椅子に座りながら眠っている姫を眺めている僕の一年がもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
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