悪役令嬢リセルの恋
 そしてショックが薄れたころ、使用人然として働いているシンデレラの容姿を見て、さらなる衝撃を受けたのである。
 ガサガサに荒れてあかぎれがある手指。髪はブロンドだけれど、手入れがされていないからパサついていてボサボサだ。肌も血色が悪くて、唇も青ざめている。頬が腫れているのは殴られた痕だろう。
 灰色の服もほころびを直した跡がたくさんあって、物語に描かれているような美しい容姿とは雲泥の差があった。
 これでは、断然リセルのほうが美しい。
 虐げられているシンデレラの様子がここまでひどいとは思ってなかった。お小遣いも与えられず働きづくめで、屋敷から出ることもないシンデレラは満足な手入れ道具もないのだろう。容姿が悲惨なのは当然のことだ。

 ──でも、あんなボロボロなのに、皇太子殿下に見初められるの?

 魔法で一時的に美しくなったとしても、もとに戻った時の容姿が別人級にボロボロならば皇太子は幻滅してしまい、ハッピーエンドは迎えられない。
 なんといっても、舞踏会に現れたシンデレラは「容姿の美しさ」だけで、ヒーローのハートを射止めるのだから。
  幼いころの結衣が読んだ童話のラストはめでたしめでたしで、イジワルな継母と娘は断罪も報復も受けていなかったはずだ。
 それならば結衣がリセルに転生した意味は、原作通りに立派な悪役をこなしつつ、シンデレラを絶世の美女にすることだろう。
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