悪役令嬢リセルの恋
 これしかない。これからは悪役令嬢のリセルとして完璧に生きようと決意したのだ。
 というわけで、今、さっそくクローゼットにある中でも大人しめなドレスを選び、こっそりと屋敷を出たのだった。シンデレラを美しくするために必要なものを買うためだ。
 リセル手持ちのものを使おうとも思ったが、母と姉に見つかるとシンデレラが盗人呼ばわりされかねない。そうすれば罰の鞭が唸るだろう。そんな恐ろしい目には合わせられない。
 それに悪役であるリセルがシンデレラの世話をしてあげるわけにもいかないのだ。こっそり道具を提供して使ってもらうのがベストである。
 まずはあかぎれだらけの手をなんとかしてあげないと、後にリセルが引き裂く予定である舞踏会のドレスも作れないはずだ。

「この世界に薬局ってあるのかな?」

 この体の主だったリセルの記憶には、ドレスやジュエリーなど身を飾るためのショップ情報しか入っていない。しかも高級店ばかりだ。
 そんな場所に行けばリセルの知り合いに出会いかねない。そうすれば伯爵夫人の耳に入って、理由を問われてしまうだろう。なるべく原作破壊のリスクを避けるべきだ。
 とりあえず道行く人に平民が利用する商店が並ぶ通りを聞き、なんとかたどり着くことができた。
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