悪役令嬢リセルの恋
せめて髪や顔が隠れるような服装にしたほうがよかったかもしれない。フード付きのローブのようなものだが、クローゼットの中にはなかった。きれいな容姿を誇示したいリセルにとっては、無縁な服だっただろう。
「買うしかないかな?」
そうつぶやいた瞬間だった。
「きゃあっ」
「うわぁ、危ない!」
「退け!」
遠くのほうから人々が叫ぶ声が聞こえてくる。リセルの周囲もにわかに騒がしくなってきた。
「なにごと?」
振り返ると、数人が人を押しのけながら猛然と走ってきている。
先頭は必死の形相で走る茶色の服を着た黒髪の男性。そのあとから濃青色の騎士服を身にまとった男性たちが、黒いマントを翻しながら追いかけてくる。
「青狼の騎士たちだ!」
青狼とは帝国の中でも精鋭の騎士が集まる皇家直属の騎士団だ。本来ならば皇宮にいるであろう人たちがどうしてこんなところにいるのか。
そんな疑問を抱いたのは一瞬で、リセルはにわかに焦り始めた。
「えっ、ちょ……」
平民をなぎ倒し、屋台に並べられた商品をぶちまけて走る黒髪の逃走男。
何をしたのか知らないが、にぎやかな通りで追いかけっこなど迷惑千万。このままではけが人がたくさん出てしまうだろう。
逃走男を止めるものがあればいいのだけれど……と思案するリセルの足元で、転がっている小さな玉が目に入った。
「買うしかないかな?」
そうつぶやいた瞬間だった。
「きゃあっ」
「うわぁ、危ない!」
「退け!」
遠くのほうから人々が叫ぶ声が聞こえてくる。リセルの周囲もにわかに騒がしくなってきた。
「なにごと?」
振り返ると、数人が人を押しのけながら猛然と走ってきている。
先頭は必死の形相で走る茶色の服を着た黒髪の男性。そのあとから濃青色の騎士服を身にまとった男性たちが、黒いマントを翻しながら追いかけてくる。
「青狼の騎士たちだ!」
青狼とは帝国の中でも精鋭の騎士が集まる皇家直属の騎士団だ。本来ならば皇宮にいるであろう人たちがどうしてこんなところにいるのか。
そんな疑問を抱いたのは一瞬で、リセルはにわかに焦り始めた。
「えっ、ちょ……」
平民をなぎ倒し、屋台に並べられた商品をぶちまけて走る黒髪の逃走男。
何をしたのか知らないが、にぎやかな通りで追いかけっこなど迷惑千万。このままではけが人がたくさん出てしまうだろう。
逃走男を止めるものがあればいいのだけれど……と思案するリセルの足元で、転がっている小さな玉が目に入った。