悪役令嬢リセルの恋
 お国の機関なのだから、こんなときこそ機敏に指示をしてけが人の救助活動をしてほしい。そう思うのは、リセルの中身が日本人だからか。
 逃走男を捕まえて褒められ、自慢げにしている様子の大柄の騎士を見ると、どうにも怒りが湧いてくる。
 ──お手柄なのは、アイツではない。私よ。

「おばあちゃん、ちょっと待っててね」

 リセルはすくっと立ち上がり、勢いに任せてずんずんと騎士たちのところに向かった。
 大柄な騎士の横に立って少しでも体が大きく見えるよう胸を張り、すぅっと息を吸い込む。

「ちょっと、あなた!」

 振り向いた大柄の騎士が、リセルの体を上から下まで流し見し、威圧するようにぐいっと顔を近づけた。

「なんだあ? おまえ。俺さまになんの用だ」

 いかつい顔立ちの筋肉隆々な体格でそれをされると、普通のご令嬢ならば委縮するだろう。
 けれど悪役令嬢のリセルに脅しは通じない。

「おまえじゃないわ。私はリセルよ」

 負けずににらみつけると「うっ」とひるんだ様子を見せたので、ついニヤッとしてしまう。悪役顔も役に立つと思った瞬間だ。

「国を守る騎士のくせに、犯人を捕まえて終わりなの? 通りの惨状を見てよ。ひどいものだわ。さっさと捕まえなかったあなたたちのせいよ。責任を取って救護や片付けを手伝うべきだわ」
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