悪役令嬢リセルの恋
 惨状を示すと大柄の騎士は「はっ」とバカにしたような笑顔になった。

「なんで帝国を守る騎士の俺たちが、平民ごときの世話やごみの後片付けしなきゃいけねぇんだよ。それに、俺たちは罪人の身柄を確保するのに忙しいんだ。団長命令ならばともかく、おまえのような女に指示されるいわれはねぇ!」

 平民を蔑む意識を持っている。口が悪いけれど、この騎士も貴族出身なのかもしれない。
 そうでなくてもプライドの塊だ。帝国民の尊敬を集める青狼に入れたから、天狗になったのかもしれない。

 ──どちらにしても懐の狭い男。

「あら、ごめんなさい。帝国を守る立派な志を持った騎士だと思っていたのだけど、どうやら違ったようね」

 リセルは顎のあたりに指を添えて首を傾げ、見下した笑みを作った。
 そうすれば大柄の騎士は不快な顔をし、リセルに対してますます凄みを利かせてくる。

「ああ? おまえの目は節穴か? 見ろ、この青狼の制服を。俺は青狼騎士団・第一小隊所属のアクセルさまだぞ」

 どやぁな顔で胸を張るアクセルを見上げ、リセルはフッと声に出して笑って見せた。眉をゆがめて笑うヒールな顔は、煽り効果抜群だろう。

「あら、私には騎士のふりをしているミジンコにしか見えないけれど?」
「ミジンコだと?」
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