悪役令嬢にならないか?
 やはりリスティアの聞き間違いではなかったのだ。これだけ何度も言われれば、彼の言い間違いでもないだろう。
 ウォルグはリスティアが書庫の赤い絨毯を踏みしめた途端、いきなり声をかけてきたのだ。
 初めは誰に問いかけているかわからなかった彼の言葉であるが、ここにリスティアしかいないのであれば、間違いなくリスティアに声をかけている。そして、その内容が『悪役令嬢にならないか?』だった。
「ところで、悪役令嬢とは一体どのようなものなのでしょう」
 悪役令嬢にならないかと誘われたのはいいが、その『悪役令嬢』がなんであるのかがさっぱりわからない。
「とてもいい質問だね。君に、この本を薦めよう。これに、『悪役令嬢』とは何かが書いてある。たまには、このような本を読んでみるのはどうだろうか。それから、これも」
 リスティアはウォルグが差し出した二冊の本を躊躇いもせずに受け取った。ワイン色の凝った装丁が、本好きのリスティアに好奇心を抱かせた。
「君も、毎日ここに来ているだろう?」
 地下書庫はリスティアのお気に入りの場所である。古文書や絶版本などの貴重な本がたくさんあるからだ。それに史実解説資料や歴史書など、ぶ厚い禁帯出の本もある。
「はい……」
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