悪役令嬢にならないか?
 それを聞いたリスティアは、先日、ウォルグから借りた『悪役令嬢』の本の内容を思い出していた。
「エリーサ様、大変でしたね」
 リスティアは、そう声をかけることしかできない。
 だが、現状がいいものとも思えなかった。むしろ、ミエルの行為は褒められたものでもないが、彼女のそれを暴くにはまだ証拠が足りなすぎる。だが、これ以上の犠牲を増やすのも避けたい。
 それがエリーサの話を聞いたリスティアの率直な思いであった。
「エリーサ……。あなたはよく頑張りました」
 王妃の声が心に染みる。ここにいる誰もがそう感じているだろう。
「あとは、私たちにお任せなさいな」
「いえ、王妃様。王妃様の手を煩わせることはできません。わたくしが対処いたします」
「リスティア……」
 エリーサは目の縁に涙をため、リスティアを見つめてくる。
「リスティア様。私たちにもできることがありましたら、お声がけください」
 リスティア様、リスティア様と、この場にいる令嬢たちが、次々にリスティアの名を口にする。取り巻きとしてはいい傾向だ。
「はい。必要なときには、皆さまの力をお借りすることになるかと思います。エリーサ様のためにも、一肌脱がせていただきます」
 ――だって、わたくしは『悪役令嬢』ですから。
 リスティアは、その言葉をそっと心の中で唱えた。

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