悪役令嬢にならないか?
 リスティアは制服のポケットからレースのハンカチを取り出して、彼の額に押し当てた。
「――?!」
 ウォルグは一瞬身を引いたが、すぐにリスティアの手を捕らえる。彼は、驚いたように目を大きく開けた。
「自分で、できる……。これを借りても?」
 その言葉に頷いたリスティアだが、彼に掴まれた手は少しだけ熱を帯びていた。
 ウォルグとの秘密のダンスレッスンは、リスティアがエリーサとの約束がある日以外は、地下書庫で毎日のように行われていた。
 普段、身体を動かす機会がなかったリスティアにとっては、心地よい刺激になり、夜になるとぐっすりと眠れるようになった。
 そうなると、肌や髪も艶やかになり、ただ本を読んでいる仕草ですら周囲からはため息が出てくるほど。
 だがもちろん、リスティア自身はそれに気づいていない。
 彼女の自己評価はいつまでたっても低く、たまにミエルが「相変わらず変な女」と取り巻きの男たちに零すのが耳に入ってくるのだった。

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