悪役令嬢にならないか?
 卒業パーティーの前日――。
 もう、ウォルグと地下書庫(ここ)で会うことはないだろう。
 そう思いながらもリスティアは今日も本を読んでいた。マキノン時代の歴史書を読んでから、気になることがありずっとそれを調べていた。歴史が苦手であると口にしていたウォルグだが、リスティアが相談すれば快くのってくれる。
 だからこそ、今日は最後の挨拶をしたいと思っていた。
「ウォルグ様」
 彼の姿を見つけたリスティアは、彼の名を口にして勢いよく立ち上がった。
 そんな彼女の様子に、ウォルグのほうが面食らったようだ。
「こんにちは、リスティア嬢。君がそんなに興奮するなんて、珍しいな」
「あ、ごきげんよう。ウォルグ様。申し訳ありません。気が急いてしまいました」
「僕に会いたかったのか?」
 はっきりと口にされてしまえば、顔を伏せるしかない。どうしても彼といるときは調子が狂ってしまう。
「冗談だよ」
 リスティアは頬を膨らませてから顔をあげた。
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