悪役令嬢にならないか?
断罪への誘い
 王城の大広間。高い天井には、幾何学的な模様が描かれ、煌々と輝くシャンデリアが目映い。
 ヴォー、ヴォーと大広間の片隅から響く音は、楽団が音合わせをしているものだ。
 色とりどりのドレスを身に着けている令嬢たちが次第に会場に集い、この場を華やかなものにしていた。彼女たちは、学園の卒業生である。
 そんななかリスティアは、『悪役令嬢』としてこの場に立つ必要があった。式典用の騎士服を纏った兄にエスコートされながら会場内に入り、給仕から飲み物を受け取ると、兄と幾言か交わしてパーティーが始まるのを待っていた。目立たぬようにと、二人で壁際を選んで立っていた。
 だが、パーティーが始まる直前、王太子であるアルヴィンが大広間に姿を現した途端、会場が騒然となった。音合わせをしていた楽団たちの音すらプツリと消える。
 彼は迷わず、エリーサの近くへ足を向けた。
「エリーサ・スルク。この場で君との婚約を破棄する」
 シンと静まり返った大広間に響いたのは、アルヴィンの声。つまり、そのようなふざけた内容を大声で言ったのは、アルヴィン本人である。
 彼の隣には、淡い薄紅色のドレスに身を包むミエルが寄り添うようにして立っていた。アルヴィンの腕に自らの腕をからませ、身体を預けている。それが騒然となった理由の一つだ。
 本来であれば、その場所はエリーサがいるべき場所である。
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