悪役令嬢にならないか?
「っとに、なんなのよ。あなた、さっきから」
 ミエルはアルヴィンの隣から、キーキーと騒いでいる。
「ミエル・オスレム男爵令嬢。わたくしはリスティア・ハンメルトです。見覚えありませんか?」
 そこでリスティアはドレスの裾を持ち、優雅に挨拶をした。洗練された動きが、周囲の者を釘付けにする。些細な動作であるが、品の良さとはこういったところから滲み出るもの。
「今、わたくしは『悪役令嬢』としてこの場に立っております」
「リスティア? あなた、あのリスティアなわけ?」
 ミエルは目の前にいる人物がリスティアであると信じられない様子。それもそのはず。ミエルはリスティアを『変な女』と言いふらして、馬鹿にしていたのだ。教室の隅っこでいつも本を読んでいる変な女。それが、ミエルの知っているリスティアなのである。
 侯爵令嬢でありながら、地味な女。目立たない女。だから変な女。
 ミエルだけではない。会場内でリスティアを知っている者たちは、誰もがそう思っているに違いない。一部を除いて。
 会場がざわざわと騒がしくなる。
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