悪役令嬢にならないか?
「それに……。なによ、悪役令嬢って。自分で言うの? そうね。何もしていない私に対して、そうやって詰め寄るところなんて、悪役令嬢にぴったりね」
 ミエルも悪役令嬢が登場する本を読んでいたのだろうか。巷で人気があるとメルシーが言っていたから、彼女も娯楽の一つとして手を出していてもなんら不思議でもない。
「困りましたわね」
 頬に手を添えて、リスティアは小首を傾げた。彼女の仕草の一つ一つが、周囲にいる者を魅了し始めている。
「ミエル嬢は、『悪役令嬢』の真の意味をご存知ない?」
「悪役令嬢? そんなの、悪い人に決まっているじゃないの」
「わたくしが言っている『悪役令嬢』とは、本の中の悪役令嬢とは異なりますの。わたくしが口にした『悪役令嬢』とは、王族の抱える諜報員の俗称。ミエル嬢が取り巻きを使ってアルヴィン殿下に取り入るようになったため、国王陛下の勅命により調べさせていただきました。アルヴィン殿下、そろそろミエル嬢から離れてくださいませ。エリーサ様が今にも倒れそうです」
 視線をビシッとアルヴィンに向けると、彼もニヤリと笑った。
「ああ、すまない。エリーサ」
 今までべったりと張りついていたミエルを無理矢理引き離したアルヴィンは、リスティアの背に隠れていたエリーサをひしっと抱きしめた。
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