悪役令嬢にならないか?
「オスレム男爵。それ以上は見苦しいぞ? そろそろ、私たちも卒業パーティーに戻りたいのでな」
 アルヴィンの言葉にリスティアの兄が動いた。リスティアの兄は近衛騎士である。音もなくオスレム男爵に近づくと、そのまま捕らえて大広間から連れ出していく。
 女性騎士の幾人かはその場から動けなくなったミエルを立たせ、同じように大広間から連れ去った。
 安堵のため息がいたるところから漏れ始める。
「みなの者。茶番に付き合ってもらって申し訳なかった。どうか、このパーティーの時間を楽しんでほしい。卒業生の門出を共に祝ってもらいたい」
 アルヴィンが言い終わると、楽団が音楽を奏で始めた。今までの喧騒が嘘であったかのように、ぱっと会場は明るく華やいだ。
 リスティアは大きく息を吐いた。これで、『悪役令嬢』としての役目は終わりだ。あとのことは騎士団に任せておけばいいし、エリーサはアルヴィンの婚約者として相応しい女性であると報告済でもある。昨日、ウォルグに手渡した封筒が報告書なのだ。
 エリーサに視線を向けると、彼女も安堵した様子でアルヴィンに身体を預けていた。仲の良さを見せつけられ、心がじわっと温かくなる。
「リスティア……」
 そんなリスティアの名を呼び、彼女の腰に手を回す男がいる。
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