あの日ふたりは夢を描いた
「小説、また書いてみる。果てしない夢かもしれないけど、また追いかけてみようと思って。
本当は夢を捨てたわけじゃない。心のどこかでずっとずっと書きたかったんだ。あなたが、それを思い出させてくれた」

溢れる思いを口にしたのは、みんなの前で夢を語ったあの日以来だった。

そのときばかりは真っ直ぐに彼を見ることができた。

「あのときのきみだ」と彼は嬉しそうに言葉にしたあと、

「……あっ、ごめん」とすぐに謝った。


しまったとばかりに表情を曇らせる彼。

図書館の一件を思い出し、昔の話をしない方がいいと思ったのだろう。

「もう大丈夫だから。過去も今も全部受け入れる」

そんなふうに言えるようになった私は、以前とは少し違うんじゃないか。

「きみの書いた作品、楽しみにしてる」

彼はそれだけ言って、夏の太陽の下で満足そうに笑っていた。
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