あの日ふたりは夢を描いた
「母さんいるからちょっと呼んでくるよ」

そう言って家の中に入っていく彼。

まず第一の難関はご家族への挨拶で、私は玄関前で背筋を伸ばして待っていた。

一分も経たないうちにゆっくり玄関が空き、巻き髪の上品そうな女性が顔を見せた。彼のお母さんだ。

「……は、はじめまして。理央くんと同じクラスの並木真白と申します……」

「あらぁ、あなたが並木真白さんね。いらっしゃい。いつも理央がお世話になっています」

「……いっいえ、お世話になってるのは私の方で……」

「ふふふっ、謙虚なのね」

目元と笑顔が彼にそっくりだった。

「母さん、将来有望な小説家だからサインもらっておきな」

「ちょっと相馬くん、なに言ってるの」

「あら。サインあとでいただくわね。未来の作家さん」

お母さんもノリがよい人で、笑顔でそう答えていた。
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