あの日ふたりは夢を描いた
指が震えないように全身の神経を集中させて火花を見ていた。


……それなのに。


「真白」

なんていつも呼ばない呼び方で左隣から呼ばれたから、思わずそっちを向いてしまった。

……唇に、温かい感触があった。

それがキスだと気づいた頃には、線香花火の蕾はもう地面に落下していた。

「僕の勝ち」

彼がいたずらな笑みを浮かべている。

彼の線香花火だけが、まだ優しく火花を飛ばしていた。

それをただ見つめていたが、最後の最後までその蕾は落ちることなく、静かに消えていった。
< 178 / 321 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop