あの日ふたりは夢を描いた
家に着き自転車を玄関の脇に止める。

この辺の治安は悪くないが念のため鍵を抜き、カゴに入ったリュックを背負って玄関の扉を開けた。

焼き魚の匂いが鼻をかすめる。靴を脱いで廊下を歩きリビングの扉を開けた。

お母さんが夕飯の支度をするいつもと変わらない風景が広がっている。

「あら、帰ったの」

お母さんはいつからか、『おかえり』と優しく声をかけなくなった。
私がこんなふうになってからだ。

「うん、ただいま」

「お兄ちゃんが帰る前に先にお風呂入っちゃいなさい」

トントントンとまな板の上でリズムよく野菜を切る音がリビングに響いている。
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