あの日ふたりは夢を描いた
「きみの方を向いて食事しない。君のこと見ない。だから一緒に食べよう」

彼はそう言うと、私の返事など聞かず売店で買ってきたであろうパンを袋から出し食べ始めた。

視線がこちらにないならまあいいかと、私も諦めて静かに食事をし始めた。


「きみは本が好きなの?」

箸で掴んだウインナーを口に運ぼうとしたとき、彼が前の席でぽつりと呟いた。

「えっ?」

いつも教室で本ばかり読んでいるから当然といえば当然だけど、人気者の彼の目に自分の日常が映りこんでいたということに驚いていた。

「言っただろ、きみを知ってるって」

「……あ、うん。昔からすごく好き。古書店でアルバイトもしていて」

ほぼ初対面なのに、自分でも不思議なくらい調子よく声が出た。好きなことについての話だからだろうか。
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