あの日ふたりは夢を描いた
急に雨が当たらなくなったと思って見上げたら、こちらを見ずに傘だけさし出すきみがいた。

「あっあの、風邪、ひきますから、

……どうぞ」

傘を無理やり僕に握らせて、小走りで去っていくきみを、姿が見えなくなるまで見ていた。

きみはいつだって光をくれるヒーローなんだね。

世界は優しいと、まだ生きていたいとそう思えた。

入院生活が二ヶ月も続き、余命宣告からまだ一年も経っていなかったが、自分の命はもう長くはないかもしれないとそう悟り、医者から一時退院の許可をもらった。

自由に出歩けるのはこれが最後になるだろう。

真っ先にきみに会いたいと思った。
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