あの日ふたりは夢を描いた
「……並木真白」

僕は少し離れた場所で呆然と立ち尽くし、口からは彼女の名前がぽろりとこぼれた。

図書室の中央にある大きな楕円形のカラフルな机の前に座り、ときどき微笑みながら楽しそうに本を読むきみがいた。

彼女がいる奥の大きな窓からは桜の木が見えて、ちょうど花びらが散り始め風で舞っていた。

きみと桜が見事に融合して、まるで一つの美しい作品のようで、そこだけ切り取って持ち帰りたい気持ちに駆られた。

本当はあの日の話をしたかった。

『きみが僕を変えたんだ』と、『今アイドルの夢を追えているのはきみのおかげだ』と、そう伝えたかった。

だけど話しかけられなかった。そのときの僕は意外と小心者で、僕のことを全く知らないきみに話しかける勇気がまだなかったんだ。

僕はまだ夢追い人でなにも成し遂げてない。

それに、ただ目の前のきみが楽しそうだったから、それで十分だとも思ったから。
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