あの日ふたりは夢を描いた
そんな身も心も美しい彼女がうしろから僕に聞いた。

「……あなたは?アイドルになるの?」

ちゃんと僕の存在を知っていてくれているんだと、嬉しくてにやけてしまう。

彼女には背中しか見えていないから、僕の表情なんてわからなかったと思うけど。

「うん。僕はアイドルになるよ」

彼女にそう宣言できる日が来るなんて、夢みたいだった。

……夢みたいだけど、僕はこの夢を叶えられる日が来るのだろうか。


「……ぴったりな職業だね」

「そう言ってくれてすごく嬉しい」

僕に夢を追う勇気をくれた人が、僕の追う夢を適職だと判断している。

その事実が、絶望と不安の中でも微かな喜びをくれていた。
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