あの日ふたりは夢を描いた
「……わかりません」

黒板と向かい合い、うつむきがちに小さくそう答える。

「じゃあ途中式まででいいから解いてみろ」

あぁ、逃げられないんだ。こんなにも無能な自分が恥ずかしくて情けなくて、今にも教室を飛び出したい。

チョークを黒板に近づけようと震える右手を少し上げたとき、

「先生!その問題、僕が解いたら駄目ですか?僕自信あるんで」


張りのある声が聞こえてきたと思ったら、手を挙げて立ち上がっている彼がいた。

……相馬くん。

「相馬、今日は来てたんだな。よし、じゃあ代わりに解いてみろ。並木は席に戻っていい」

「……すみません」

顔を下に向け、体を小さくしながら席に戻る。

相馬くんはノートも持たず、その場で考えながらすらすらと黒板に数式を書いていく。

「おお、正解だ」

相馬くんは得意げになるわけでもなく、ただチョークの付いた指を気にしてパッパッと払っていた。
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