あの日ふたりは夢を描いた
五月のそよ風が彼のさらさらの髪を静かに揺らしていた。

「……あんまりさ、私と関わらない方がいいんじゃないかな」

なにも答えない彼に少し怯みつつ続けた。

「私とあなたは正反対だよ。あなたと私が一緒にいたら、みんなよく思わない。
あなたはみんなの人気者で将来有望で、私は学校生活にも適応できない駄目な人間で……」

そこまで言ったところで、いつもより低い彼の声が話しを遮った。

「きみは本当に駄目な人間だろうか?」

「……えっ?」

どこからどう見たって私なんか……

「いつも言ってるだろ。僕はきみを知っているって」

彼は足を伸ばし両手を斜め後ろにつきながら、楽な姿勢で当たり前にそんなことを言った。
< 49 / 321 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop