あの日ふたりは夢を描いた
……なんで彼がこんなところに。どうして私の名前を?

「……私に、なにか?」
 
相手がこちらを見ていると思うとひどく緊張して、うつむきがちにこのひと言を言うだけで精一杯だった。

「これ、届けに来た」

そう言われて顔を上げる。

彼が右手に持って私に向けていたのは、普段肌身離さず持ち歩いているノートだった。

「えっ……!」

慌てて箸を置き、考える間もなく立ち上がった。
彼の右手からノートを奪い取り、胸の位置で両手で強くノートを抱きしめた。

「どうしてこれを?」

無愛想で目も合わさず、投げ捨てるように話す私は、これまで以上に最悪な印象を持たれたに違いない。
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