あの日ふたりは夢を描いた
「どうしてって、さっき化学室に忘れていっただろ?」

……あぁ、うっかりしていた。

授業中に先生に当てられ、震えるくちびるで言葉に詰まりながら解答を言った。

『声が小さくて聞こえない』と言われ、二度言う羽目になった。

全身が熱くなり汗が噴き出し、心がどきどきしたまま授業が終わった。

その動揺が収まらず、大事なノートを忘れるというミスをしてしまったようだ。


「中、見ました……よね?」

最も重要なことはノートを化学室に忘れたことではなく、ここの問題である。

「人の大切なノートを勝手に開いたりしないさ」

声になんの抑揚もないから本当に聞こえるけど、嘘に決まってる。
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