あの日ふたりは夢を描いた
「だから、尚にお願いしたいことがある」

「ん?」

「並木はさ、みんなに誤解されやすい部分があると思う」

「まあ、あるかもな」

彼女と一年生のときから同じクラスの俺は、それがよくわかっていた。

彼女は人とコミュニケーションを取ることがひどく苦手なようだった。

「本当はすごく魅力的な人なんだ」

「理央が言うならそうなんだろうな」

「俺は彼女のことをよく知ってる」

「あぁ」

「いつも俺がそばにいられたらいいけど、それは難しいからさ」

「うん」

「並木になにかあったら、助けてあげてほしいんだ」

助ける、というのがいまいちピンと来なくて少し考えてしまった。

「……俺にできることなら」

「そんなに大それたことじゃなくて。ちょっと手を貸すだけで救われることもあると思うから」

「わかった」

「彼女はすごく繊細な人だから、きっと自分でも苦しんでると思うんだ」

「そうかもしれないな」

並木が悪い人じゃないのはわかっていた。ただクラスに馴染めないだけで。

「彼女がいつか自分の魅力に気がつけるときまで、そばにいれたらいいな」

どこか寂しそうにそう言う理央を、俺は横目でただ不思議に思いながら見ていた。
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