10歳差の王子様
あさひのおばさんもおじさんもいるリビングで兄貴が持ってきた缶ビールを開けた。
おばさんは飲まないって言ってたけど、おじさんは嬉しそうで、兄貴はあさひにも渡していた。

きっとあさひも断るだろ、そう思っていた。

だけど微笑んで缶ビールを開けていた。

その姿に少しだけ驚いた。

あさひもビール飲んだりするんだ。

オレとは絶対そんなことしないから。
未成年だし、オレ。


「あさひとこうして酒飲む日が来るとはな~」

「拓海くんおじさんみたい!私と拓海くん、3つしか変わらないでしょ!」


…そーなんだ、オレと13歳離れた兄貴はあさひとは3つしか変わらない。3つ上なだけ。

だから当然、オレの知らない話がたくさんある。


「あさひのスーツもコスプレじゃないんだもんな、今や」

「コスプレって言わないでよ!それ小学校の時の劇でしょ!」

「そうそう、先生役だっけ?スーツめちゃくちゃデカくて全然セリフ入って来なかったもんな~」

「英語の先生役だったからすごい練習したのにみんな感想スーツのことしかなかったんだからっ」


そんなことあったんだ。初めて聞く話だ、あさひの劇なんてあたりまえだけど見たこともない。


「拓海くんは王子さま役だもんね」


マジかよ、あんなゴリゴリして王子やってんのかよ。あ、その時はまだゴリゴリじゃなかったか。


「やっぱ劇は主役やらないとな!」

「所詮私はセリフの少ない英語の先生だよ!」


はははははっと笑い合ってる。
そんな2人の会話をあさひのおばさんがくれたオレンジジュースをストローで飲みながら聞いていた。

一瞬、会話がなくなった。
かと思えば、急に話が変わった。


「もうあの指輪はいらないのか?」


……………は?
今なんて…


「やめてよ、いらないし!」


え、何その返し…?

顔を赤らめるあさひにストローの中のオレンジジュースが逆流していく。


「そっかー、残念だなー。あんなに欲しがってたのになー」

「もう忘れてってば!」


ケラケラと笑っている兄貴に、頬を赤くしてあさひが小突いてる。

いやいやいやいや??
なんだその会話、いつどんな時どうして欲しがった?

指輪って、そんな簡単に買うものだっけ…!?

めちゃくちゃ聞きたかったけど、聞けなかった。
なんてゆーか、そこは2人の空間で、俺の知らないあさひとの10年を語ってるみたいだった。
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