10歳差の王子様
本当は高校まで送っていきたいところだけど、それは叶わぬ夢だから小学校の前であさひと別れた。
下駄箱で上履きに替えて、教室へ行くのに廊下を歩いていると後ろから学校中に響いてるんじゃないかってぐらい大声で名前を呼ばれた。
「あおとぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」
その声はどんどん近付き、勢いよくドンッとおれにぶつかって来た。
「おはよう!!!」
ドンッていうのはこの個体、戸村太陽が飛びついて来た音。
「またねぇーちゃんと手繋いできたのか?」
背中にのしかかるように、太陽とはあまり背が変わらないから完全に身を任せられて正直重いし邪魔なんだけど。漆黒のランドセルが潰れるだろ。
「小学生にもなってねぇーちゃんと手繋いで学校来るなんておれにはできないわ!」
ふふーっとまるでおれをあざ笑うかのように息を吹きかけてくる。
あざ笑うは相手を見下してからかうように笑うことらしい、最近教えてもらった。
太陽がどかないからおれもそのまま廊下に突っ立ったまま。
「つーか、あさひはねぇーちゃんじゃねぇし」
「じゃあ何なの?」
「女の子」
「ふーーーっ、女の子ってお前っ」
ぶるんっとランドセルを左右に降って太陽を引き離した。鼻で笑われたのがなんかイラっと来たから。
「太陽も女の子と手ぐらい繋いでみたら?」
「そんなことしたら男がすたれるだろ!」
「そんな女の子もいないんだろ、寂しい奴だな」
「寂しくねぇーよ!わざと作らねぇんだよ!」
今度はガシッと肩を組んできた。ずっと教室には行けないまま、廊下で立ち話みたいになってきた。
「作ればいいのに」
「いらねぇよ!」
「そりゃあ、作ろうと思って作るもんじゃないけど…例えば野崎美羽とか」
ちょうど目に入ったから。ずっと真っ直ぐ、廊下の端に見えたから。
大きな瞳に白い肌、ふわっとした長い髪を2つに束ね、よくひらひらしたスカートを履いてる。たぶん美羽は可愛い。
おれからしたらあさひのが可愛いけど。
「なんで美羽なんだよ!」
特に意味はないけど、テキトーに言っただけだから。なのに太陽の声が大きくなったのが気になった。そんな耳元で叫ばれたらビックリする。
「美羽がなに?」
ほら、遠くにいた美羽にも聞こえちゃったじゃんか。わざわざ廊下の隅っこにいたのにこっちに走って来た。
「なんか太陽がぁ、手繋いでくれる女子探してるみたいだからみ…っ」
"美羽どうかな?"って言おうとした口を塞がれた。もごってなった。
「なんでもねぇよ!美羽には関係ない話!」
「何その言い方ー!太陽が呼んだんでしょ!」
「呼んでねぇよ!勝手に美羽が来たんだろ!」
「来てないし!じゃあ勝手に私の話しないでよ!」
置いてきぼりに急に言い合いが始まってしまった。どうしよう、ここを離れるにも離れられない。いい加減教室へ行きたい。
すごい邪魔なんだよな、早く手どけてくれないかなー。息しにくいんだよなー。
ずっとおれの口を塞いだ太陽の手が熱くて仕方なかった。
下駄箱で上履きに替えて、教室へ行くのに廊下を歩いていると後ろから学校中に響いてるんじゃないかってぐらい大声で名前を呼ばれた。
「あおとぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」
その声はどんどん近付き、勢いよくドンッとおれにぶつかって来た。
「おはよう!!!」
ドンッていうのはこの個体、戸村太陽が飛びついて来た音。
「またねぇーちゃんと手繋いできたのか?」
背中にのしかかるように、太陽とはあまり背が変わらないから完全に身を任せられて正直重いし邪魔なんだけど。漆黒のランドセルが潰れるだろ。
「小学生にもなってねぇーちゃんと手繋いで学校来るなんておれにはできないわ!」
ふふーっとまるでおれをあざ笑うかのように息を吹きかけてくる。
あざ笑うは相手を見下してからかうように笑うことらしい、最近教えてもらった。
太陽がどかないからおれもそのまま廊下に突っ立ったまま。
「つーか、あさひはねぇーちゃんじゃねぇし」
「じゃあ何なの?」
「女の子」
「ふーーーっ、女の子ってお前っ」
ぶるんっとランドセルを左右に降って太陽を引き離した。鼻で笑われたのがなんかイラっと来たから。
「太陽も女の子と手ぐらい繋いでみたら?」
「そんなことしたら男がすたれるだろ!」
「そんな女の子もいないんだろ、寂しい奴だな」
「寂しくねぇーよ!わざと作らねぇんだよ!」
今度はガシッと肩を組んできた。ずっと教室には行けないまま、廊下で立ち話みたいになってきた。
「作ればいいのに」
「いらねぇよ!」
「そりゃあ、作ろうと思って作るもんじゃないけど…例えば野崎美羽とか」
ちょうど目に入ったから。ずっと真っ直ぐ、廊下の端に見えたから。
大きな瞳に白い肌、ふわっとした長い髪を2つに束ね、よくひらひらしたスカートを履いてる。たぶん美羽は可愛い。
おれからしたらあさひのが可愛いけど。
「なんで美羽なんだよ!」
特に意味はないけど、テキトーに言っただけだから。なのに太陽の声が大きくなったのが気になった。そんな耳元で叫ばれたらビックリする。
「美羽がなに?」
ほら、遠くにいた美羽にも聞こえちゃったじゃんか。わざわざ廊下の隅っこにいたのにこっちに走って来た。
「なんか太陽がぁ、手繋いでくれる女子探してるみたいだからみ…っ」
"美羽どうかな?"って言おうとした口を塞がれた。もごってなった。
「なんでもねぇよ!美羽には関係ない話!」
「何その言い方ー!太陽が呼んだんでしょ!」
「呼んでねぇよ!勝手に美羽が来たんだろ!」
「来てないし!じゃあ勝手に私の話しないでよ!」
置いてきぼりに急に言い合いが始まってしまった。どうしよう、ここを離れるにも離れられない。いい加減教室へ行きたい。
すごい邪魔なんだよな、早く手どけてくれないかなー。息しにくいんだよなー。
ずっとおれの口を塞いだ太陽の手が熱くて仕方なかった。