昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
「ただいまー」
「おかえり昇子、お部屋はもっときれいにしなさいね」
「分かってるってママ」
 昇子は途中、森優のおウチに寄りノートと今日配布されたプリント類と、約束通り給食で出されたびわゼリーを届けて、夕方五時半頃に帰って来た。
手洗い、うがいを済ませて二階に上がり、 
いない、よね? 今朝は姿を見かけなかったし。
昇子は恐る恐る自室の扉を開けると、
「Welcome home! ショウコちゃん」
「おっかえりーっ、ショウコイル」
「おかえりなさいませ、昇子さん」
「おかえり、昇子お姉ちゃん。今日の数学の授業は楽しかった?」 
「おかえり昇子君、汗臭いぞ」
 教材キャラ達がみんな揃って爽やかな表情で出迎えてくれた。
「……夢じゃ……無かったの。昨日の、出来事は……」
 昇子は顔をこわばらせる。
「だから現実だって。ショウコイル、もう認めちゃいなよ。オレっち達はキャラデザのヒカルシャトリエの空想と現実の二面性を持っているのだ。光が波と粒子の二面性を持ってるのと同じようにね」
 摩偶真がにこやかな表情を浮かべながら、肩をポンポンッと叩いてくる。
「……わっ、分かった。認めるよ、もう」
 昇子はついに観念してしまった。その方が精神的に楽だと感じたからだ。
「あのう、ショウコちゃん、今日貧血で倒れた、いつもいっしょに学校に通ってる素敵なお友達がいるんだね。What‘s her name?」
 サムが問い詰めて来た。
「あっ、あの子は森優ちゃんっていうんだけど……ていうか、なんで知ってるの?」
 昇子は当然のように驚く。森優のことはこの五人に一度も話したことはないからだ。
「これで、ショウコちゃんのスクールライフを眺めていたんだよ」
 サムはテレビ画面を指し示す。
 昇子の通う学校校舎の映像が映し出されていた。
「何これ?」
 昇子はケーブルの方にも目を向けた。
「このケーブルは、地球上のどの地点からでもライブ映像を映し出すことが出来る洸君の発明品だぜ」
 玲音はどや顔で得意げに説明する。
「すっ、凄いな、あの人。どういう原理で、こんなことが?」
 昇子はかなり驚いている様子だった。教材キャラ達がテキストの中から最初に飛び出て来た時と同じくらいに。
「それが、洸君自身にもよく分からないみたいだぜ。小学校時代に好きだった男の子のおウチを覗きたいなという願望が、発明しようと思った動機だとは言ってたけど」
「……これ、非常にやばくない? 盗撮でしょ」
「昇子さんもそう思いますよね?」
 伊呂波は真顔で同意を求めてくる。
「そっ、そりゃそうでしょ」
「ショウコイル、これでモユリア樹脂って子のおウチ内部も見られるぜ」
摩偶真はそう言うとリモコンボタンをピッと押し、映像を切り替えた。
「こっ、これは――」
 昇子は思わず顔を画面に近づけた。
 森優のお部屋の一部の映像が映し出されたのだ。ピンク地白水玉模様のカーテンで水色のカーペット。窓際に観葉植物。学習机の周りにはオルゴールやスイーツアクセサリー。ゴマフアザラシ、モモンガ、コアラなどの動物やゆるキャラの可愛らしいぬいぐるみ、着せ替え人形なんかがたくさん飾られてある、じつに女の子らしいお部屋だった。何度か森優のお部屋を訪れている昇子には特に目新しくは映らなかったが、こんな視点で観察したのはもちろん初めてのことだ。
「ショウコイル、モユリア樹脂がおウチでどんな風にして過ごしているか知りたいでしょ?」
 摩偶真はにやっと微笑む。
「ダメダメダメッ!」
 昇子は冷静に判断する。
「あっ、モユちゃんっていう子、今からurinationかfecesするみたいだよ」
 サムは画面を食い入るように見つめる。
「わあああああああっ、ダッ、ダメダメダメッ。法律的に」
「ショウコちゃん、見たくないの? 同性でしょ?」
「同性だからこそ見たくないのっ!」
 昇子は慌ててテレビの電源を切った。また映像が切り替わり、トイレで下着を脱ぎ下ろしている森優の姿が映し出されていたのだ。森優の穿いていた水玉模様のショーツを、昇子はほんの一瞬見てしまった。
「あーん、もっと見たかったのにぃ」
「オレっちもーっ。腎臓で血液から濾過され、膀胱に溜められた老廃物が排泄される重要な人体現象だもん」
 サムと摩偶真はふくれっ面で駄々をこねる。
「これは、プライバシーの侵害だよ」
「すまねえ昇子君、つい〝知る権利〟の方に意識を片寄せ過ぎちまって。これからは必要最低限の生活面だけを見るようにするぜ」
 昇子に困惑顔で注意され、玲音は申し訳なさそうに謝る。
「いやぁ、全く見なくていいんだけど」
 昇子は対応に困ってしまう。
「レオンくんがショウコちゃんのことを知る権利があるって言ってたから、ショウコちゃんのお部屋、勝手にinvestigateさせてもらったよ。面白いコミックやラノベ、けっこう持ってるね。ボクもコミックやラノベ大好きだよ」
「ショウコイルって、三次元のオスやメスの裸が載ってる本は一冊も持ってないんだな。ベッドの下も調べたんだけど、収納ケースが置いてあって、中に服とゲノムならぬゲームが入ってただけだし」
「ショウコちゃんはヒカルちゃんと同じくwholesome girlだね。いい子、いい子」
 摩偶真とサムは機嫌良さそうに話しかけてくる。
「あのう、あんまり私の部屋、荒らさないでね」
 昇子は悲しげな顔で注意しておく。
「昇子お姉ちゃん、このテレビ、テレビ番組は見れなかったよ。どのチャンネルに変えても受信出来ませんって出た。これじゃあド○えもんもクレ○ンしんちゃんもちび○る子ちゃんもサ○エさんも妖怪○ォッチも見れないよう」
 流有十は昇子の袖を引っ張りながら不満そうに伝えた。
「そりゃあ放送用のアンテナ繋いでないからね。このテレビはDVD・ブルーレイ視聴専用なんだ。繋ぐのは高校合格してからってママと約束してる。今は深夜アニメ、帆夏がDVDかブルーレイに録画して来たやつをこのテレビか学校のパソコンで見てる状態だから、早く生で自由に見られるようになりたいよ」
 昇子は苦笑いを浮かべて切望する。
「それじゃ昇子お姉ちゃん、受験勉強ますます頑張らなきゃいけないね」
「うっ、うん」
「ショウコちゃんは、ビデオゲームはやらないの?」
 サムが質問してくる。
「ビデオゲームって、テレビゲームのことだよね。中学に入ってからはほとんどやってないな」
「そっか。でもそれは良いことだよ。ショウコちゃんは今、受験生だもん」
「そうだね」
まあ、テレビゲームしてた時間が、アニメ雑誌やラノベを読む時間に取って代わっただけなんだけど……。
「ねえショウコイル、モユリア樹脂今度はお風呂に入るぜ」
 摩偶真は昇子が他の事に意識が移っていたのをいいことにまたテレビをつけ、森優のおウチ内部を観察していた。
「うわっ、こらこらっ、ダメでしょ」
 今度は森優が脱衣場で服を脱いでいる様子が映し出されていた。昇子は慌てて主電源を消し、摩偶真の頭をパシーンッと叩く。
「いたたたぁっ、ひどいよショウコイルゥ」
 摩偶真が頭を押さえながらそう言ったその時、
「昇子ぉーっ、ご飯よぉー。今日灘本先生、職員会議で遅くなるからいらないって」
 一階から母の叫び声が聞こえてくる。
「分かったーっ。すぐ行くぅ」
 昇子は返事をしたのち、
「森優ちゃんがお風呂入ってるとこ、ぜぇぇぇったいに、覗いちゃダメだよ。伊呂波ちゃんもね」
 サム達の方を向いてこう念を押し、部屋から出ていった。
「これはチャンス! モユリア樹脂の入浴シーン、思う存分覗くぞぉーっ!」
 摩偶真はすぐさま嬉しそうにテレビをつけ、森優のおウチの浴室を映し出した。
 ちょうど風呂イスに腰掛け、長い髪の毛をシャンプーでこすっている最中だった。
「おううう! モユリア樹脂は、この歳でまだシャンプーハット使ってるのかぁ。シャンプーハットの材質はEVA樹脂、シャンプーは弱酸性のものかな? 下の毛もけっこう生えてるね。陽樹林だな。ショウコイルはまだ裸地から草原への遷移段階だったぜ」
「森優お姉ちゃん、おっぱい大きいね。体積量りたぁーい!」
「ナイスバディだね、モユちゃん」
「森優君って子、昇子君以上にメスブタ臭がきつそうだな。将来太りそうな体つきしてやがるぜ」
 サムと玲音も画面に食い入る。森優は体をバスタオルで隠すことなく全裸姿だったのだ。
「皆さん、鬼の居ぬ間に洗濯はダメですよ」
 伊呂波は困惑顔で注意した。
「まあいいじゃんイロハロゲン」
「出た! 日本のことわざ。ちなみに英語では、When the cat‘s away,the mice will play.だよ。でもショウコちゃんは鬼って感じが全然しないよ」
「そうだな。ショウコイル、怒っても全然怖く無さそうだし」
「昇子君は大和撫子っぽいぜ」
「ぼく、昇子お姉ちゃんの優しそうなところが大好きぃーっ!」
 伊呂波以外の四人は森優の入浴シーンを眺めながら、楽しそうに会話を弾ます。
「皆さん、止めた方がいいですよ」
 伊呂波は再度注意するも、
「大丈夫だってイロハロゲン。イロハロゲンもいっしょに観察しようぜ」
「伊呂波君、べつにいいじゃねえか。ヒンドゥー教徒のガンジス川での沐浴に通じるものがあるし」
「今ちょうどお体ゴシゴシrubbingしてるいいところなのに。このあとは湯船に浸かってくつろぐという日本ならではのシーンが楽しめるんだよ」
「伊呂波お姉ちゃん、眺めてると森優お姉ちゃんといっしょにお風呂入ってる気分になれるよ」
 四人はこう言い訳して、尚もテレビ画面に集中する。
「ねえ、皆さん……今すぐ、そういうことはやめなさいっ!」
 伊呂波は眉をへの字に曲げて、命令形で少し強めに言った。
 すると次の瞬間、
「ごっ、ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい伊呂波お姉ちゃぁん」
「ひいいいいいいい、すっ、すまねえ、イロハロゲン」
「すまんっ、伊呂波君」
「アッ、アイムベリーソーリー。I‘m very afraid of you.Your face was much more fearful than a portrait of Beethoven.It equals namahage.」
 四人はびくびく震えながら慌てて謝った。摩偶真はとっさにテレビの電源を消す。流有十は泣き出してしまった。
伊呂波の顔が今しがた、般若面に急変化したのだ。しかも元の顔の大きさの五倍くらいまでふくれ上がっていた。
伊呂波の顔はそれから瞬く間に何事も無かったかのように元の可愛らしいお顔へと戻った。
「わらわは、怒りがある程度ふくれ上がると、こんな風になっちゃう設定になってるんです。きっと国語の学習内容に《能と狂言》があるせいだよ。昇子さんには絶対こんな醜い姿見られたくないです。穴があったら入りたいよぅ」
 伊呂波はとても照れくさそうに顔を真っ赤に火照らせで呟いた。
「「「「……」」」」
 伊呂波の恐ろしい風貌を見てしまった四人は、すっかり反省したようである。

「覗かなかった?」
夕食を取り、お風呂にも入り終えた昇子は再び自室へ戻って来た。
「あの、昇子さん。この人達、みんなで森優さんのお風呂、覗いてましたよ」
 伊呂波は困惑顔で、四人を指し示しながら告げ口する。
「やっぱり……」
 昇子はムスッとなった。
「ショウコイル、すまんね。もう金輪際やらないから。たとえウラン238の半減期くらい長い時間が経とうとも」
「アイムベリーソーリー、ショウコちゃん。湯船に浸かるシーンがどうしても見たくって」
「昇子お姉ちゃん、ごめんなさーい」
「昇子君、もう二度とやらないから。おれさま、次こういうことしたら大石内蔵助のように切腹するか、ソクラテスのように毒杯を仰ぐぜ」
 四人は昇子の方を向いて深々と頭を下げた。
「昇子さん、ご覧の通り皆さんは大いに反省しているので、許してあげて下さい」
 伊呂波は昇子の目を見つめながら頼み込む。
「まっ、まあいいけど。今後は、絶対にやらないでね」
 昇子はこう注意して学習机の前に立った。机に貼られた時間割表を眺めながら、昇子は明日行われる授業の教科書・副教材、ノートを通学鞄に詰めていく。整え終わったちょうどその時、昇子のスマホ着信音が鳴り響いた。今放送中の深夜アニメのOP主題歌であった。
 電話がかかって来たのだ。
「森優ちゃんからだ」
 番号を確認すると昇子はこう呟いてベッドに腰掛け、通話アイコンをタップする。
「もしもし」
『あっ、昇子ちゃん。ノートとプリントと、給食のびわゼリー届けてくれてありがとう』
「どういたしまして。お体は、大丈夫?」
『うん、おウチ帰った後いっぱい休んだからもう平気。すっかり元気になったよ。あのね、昇子ちゃん、すごく言い辛いんだけど……全部同じ色で書かれてるから、どこが要点なのか分かりにくいよ。字も、読みにくくて』
「ごめん、森優ちゃん。私の、書き方、良くなかったね」
 昇子は電話越しにぺこぺこ謝る。
『いいの、いいの。昇子ちゃんが、一生懸命取ってくれたことが良く分かるから。気にしないでね』
 森優は慰めてくれた。
「本当に、ごめんね。あっ、あと、連絡だけど、時間割変更で、明日も家庭科があるよ。六時間目に。帰りのHRで古塚先生が言ってた」
『あの、そのことは、家庭科の授業でも連絡してたよ』
「えっ! そうなの?」
『昇子ちゃん、聞いてなかった?』
「うっ、うん。考え事してて」
『昇子ちゃん、授業中は集中して先生のお話聞かなきゃダメだよ。テストに出る大事なポイントもお話ししてくれるからね』
「分かった。次からは気をつけるよ。じゃっ、じゃあ私、そろそろ切るね」
『あっ、待って昇子ちゃん』
「なっ、何?」
 昇子はぴくっと反応した。
『あの……今度の土曜、明後日だけど、いっしょにショッピングに行こう』
「えっ!」
 森優の突然の発言に、昇子はどきっとした。
『あの、今日の、お礼がしたくて……』
「あっ、そっ、そう? それじゃ、いっ、いいけど」
 昇子はやや躊躇う気持ちがありながらも、一応引き受けてあげた。
『ありがとう。それじゃ、またね、昇子ちゃん』
「うっ、うん」
こうして昇子は電話を切った。
「ショウコちゃん、今のが、百合フレンドのモユちゃんだね? How long have you been dating with Moyu?」
「うわっ!」
 昇子はかなり驚く。
 すぐ真横に、サムがいたからだ。現在完了進行形で質問もして来た。
「森優ちゃんは百合フレンドじゃなくて、ごく普通の幼友達よ。物心つく前からの」
「幼馴染、つまりChildhood friendなんだっ! Wow! イロハちゃんの予想した通りだね。ねえ、ショウコちゃん、ワタシはモユと知り合って十二年になります。を英語で言ってみて。ヒント、現在完了形を使うんだ。学校で習ったばっかりの単元でしょ?」
「えっと……アッ、アイハブ、ビーン、ノウン、モユ、トウェルヴ、イヤー」
「ノーノー、ダメだよ。You are wrong.I have been known Moyu for twelve years.だよ。リピートアフタミー」
「アッ、アイハブビーンノウンモユ、フォアトウェルヴイヤーズ」
「Good!」
 昇子が棒読み英語で言ってみると、サムはウィンクをして指でOKサインをとった。
「あっ、どっ、どうも」
 サムくん、三次元化してもやっぱけっこうカッコかわいいな。
 昇子ちょっぴり照れる。
「Hey、幼馴染ってことは、You have ever taken a bath with her,haven‘t you? いっしょにお風呂に入ったこともあるよね?」
 サムは付加疑問文を用いてさらに質問してくる。
「そりゃ何度もあるけど、サムくん、なんてはしたないこと聞くのよ」
 昇子は俯き加減で答えた。
「アイムソーリー」
 サムはてへっと笑う。
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