昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
「昇子、森優ちゃんとのデート、楽しんでる?」
「マッ、ママッ! なんで、ここに……」
シネコン入口前でばったり出会い、昇子はびっくり仰天。
「生徒達だけで映画館に立ち寄ってはいけないって生徒手帳に書かれてたから、おば様に同伴してくれるようにお願いしておいたの」
森優は嬉しそうに伝えた。
「そっ、そういうことかぁ。でも、確かにその通りだけど、それを忠実に守る必要はないと思うけど……」
「森優ちゃん、とってもいい子ね」
母はにっこり微笑む。
「私は、非常に気まずいんだけど……」
昇子は当然のようにそう感じた。
「森優ちゃんは、どの映画が見たいのかな?」
「あれです。おば様」
母に尋ねられると、森優はいくつかあるうち対象のポスターを指差す。
「えっ、あれを見るの?」
昇子は少し動揺した。
「よかったわね、昇子が好きそうなやつで」
母はくすっと笑う。
「昇子ちゃん、女の子がいっぱい出るアニメ大好きでしょ?」
「たっ、確かに大好きだけど、こういう、子ども向けのじゃなくて……」
「わたしも大好きなの。わたしが今日、昇子ちゃんを遊びに誘った理由は、いっしょにこれが見たかったからなんだ。さすがに中学三年生にもなってこれ観に行くのは気が引けるから悩んでたんだけど、観に行かないと絶対後悔すると思って」
森優は満面の笑みを浮かべ、弾んだ気分で打ち明ける。それは一月ほど前、ゴールデンウィークに公開され来週金曜日で上映終了となる女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。
「大人一枚、中学生二枚で」
チケット売り場にて母が三人分の入館料金を支払うと、受付の人がチケットと共に入館者全員についてくる、キラキラして可愛らしいおもちゃのペンダントをプレゼントしてくれた。
これは子どもっぽ過ぎるよね。幼稚園児のおもちゃだもんねぇ。
昇子はそう思うも、嬉しくも感じていた。
「森優ちゃん、昇子、何かお菓子と飲み物いる?」
「わたしはいらないです。お昼お腹いっぱい食べたので」
「私もいいよ」
「そっか」
こうして三人は売店前は素通りし、お目当ての映画がまもなく上映される4番ホールへ。薄暗い中を前へ前へと進んでいく。
「森優ちゃん。なんか周り、幼い子ばっかりだから、やっぱりやめた方が……」
「まあまあ昇子ちゃん。気にしなくてもいいじゃない。童心に帰ろう」
昇子は森優に手をぐいぐい引っ張られていく。
「昔といっしょね」
母はその様子を微笑ましく眺めていた。
前から五列目の席で、昇子は母と森優に挟まれる形で座った。
なんか視線を感じるような……。
昇子は落ち着かない様子だった。他に三十名ほどいたお客さんの、八割くらいは就学前だろう女の子とその保護者だったからだ。
上映中。
「やはりアニメの中では物理法則が完全に無視されてるな。ツッコミどころ満載だぜ。さっきのステッキ振るシーンとか」
「ぼくあのおもちゃ、すごく欲しいーっ!」
「このアニメ、女児向けと謳いつつ、ブルーレイディスクの販売収益を上げるためなのかさりげなく大きなお友達も対象にしてるよな」
「確かにキャラデザがそんな感じだね。声優さんのヴォイス、聞きたいなぁ。これじゃ大正時代のサイレント映画だよ」
摩偶真、流有十、玲音、サムも昇子の自室からモニター越しに食い入るように鑑賞する。
映画をタダで鑑賞するのは、良くないと思うのですが……。
伊呂波も心の中で罪悪感に駆られつつも、ちゃっかり楽しんでいた。
※
上映時間六〇分ちょっとの映画を見終えて、
「しゃべる野菜や果物やお菓子さんもすごくかわいかったね。とっても面白かったよ。昇子ちゃんもそう思うでしょ?」
森優は大満足な気分で感想を伝える。
「まあ、思ったよりは、楽しめたよ。私も釘付けになったシーンあったから。好きな声優さんも出てたし。ちっちゃい子どもの騒ぎ声がうるさかったけど」
「昇子も昔はあんな感じだったのよ。森優ちゃんは大人しく見てたけど」
「そうだったかなぁ?」
母ににっこり笑顔で突っ込まれ、昇子はちょっぴり照れてしまう。
「おば様、子ども向けに作られたアニメって、いくつになって見ても面白いですよね?」
「そうね。思ったよりも良質な映画だったわ」
「わたし、子ども向けアニメ大好きなんです。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画もして見てます。あっ、あのナマケモノのぬいぐるみさんとってもかわいい! お部屋に飾りたいな」
森優は付近のクレーンゲームコーナーに近寄り、透明ケースに手のひらを張り付けて叫ぶ。
「森優ちゃん、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみの間に少し埋もれてるから、難易度は相当高いよ」
「大丈夫! むしろ取りがいがあるよ」
昇子のアドバイスに対し、森優はきりっとした表情で自信満々に答えた。コイン投入口に百円硬貨を入れ、押しボタンに両手を添える。
「森優ちゃん、頑張れ!」
「落ち着いてやれば、きっと取れるわ」
昇子と母はすぐ後ろ側で応援する。
「わたし、絶対取るよーっ!」
森優は慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。
続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。
「あっ、失敗しちゃった。もう一度」
ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。クレーンは自動的に最初の位置へと戻っていく。
「もう一回やりますっ!」
森優はとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。
「今度こそ絶対とるよ!」
この作業をさらに繰り返す。森優は一度や二度の失敗じゃへこたれない頑張り屋さんらしい。けれども回を得るごとに、
「全然取れない……」
森優は徐々に泣き出しそうな表情へ変わっていった。
「昇子、あんた昔、カー○ィのお人形さんを森優ちゃんに取ってもらったことがあるでしょ。恩返ししてあげなさい」
母が肩をポンッと叩いて命令してくる。
「でも、私、あれはちょっと無理かな。真ん中のシマウマさんのなら、なんとかなりそうだけど」
昇子は困った表情で呟いた。
「昇子ちゃん、お願いっ!」
「……わっ、分かった」
森優にうるうるした瞳で見つめられ、昇子のやる気が少し高まった。
「ありがとう。昇子ちゃん」
するとたちまち森優のお顔に、笑みがこぼれた。
「昇子お姉ちゃん、さすが」
「ショウコちゃん、very kindだね」
「昇子さん、良いお人です。この場面は昇子さんの方がお姉さんに見えますね」
「昇子君、心優しいメスブタだな」
「モユリア樹脂もよく健闘してたぜ」
その様子を、教材キャラ達もモニター越しに楽しそうに眺めていた。
まずい、全く取れる気がしないよ。
昇子の一回目、森優お目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。
「昇子ちゃんなら、絶対取れるはず!」
背後から森優に、期待の眼差しで見つめられる。
どうしよう。
昇子は困ってしまったが、
《諦めず、根気強く》
ふと、あの教材をネットで探している時に学実から言われた言葉を思い出した。
よぉし、やってやるぞっ!
それを糧に昇子は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。
しかしまた失敗した。アームには触れられたものの。けれども昇子はめげない。
「昇子ちゃん、頑張れ。さっきよりは惜しいところまでいったよ」
森優からエールが送られ、
「任せて。次こそは取るから」
昇子はさらにやる気が上がった。
三度目の挑戦後。
「……まさか、本当にこんなにあっさりいけるとは思わなかった」
取出口に、ポトリと落ちたナマケモノのぬいぐるみ。
昇子は、森優お目当ての景品をゲットすることが出来た。ついにやり遂げたのだ。
「やったぁ!」
森優は大喜びの声を上げ、バンザイのポーズを取った。
「昇子、やるわね。受験勉強もこの調子でね」
母もビデオカメラを回しながら褒めてあげた。
「たまたま取れただけよ。先に、森優ちゃんが、少しだけ取り易いところに動かしてくれたおかげだよ。はい、森優ちゃん」
昇子は照れくさそうに語り、森優に手渡す。
「ありがとう、昇子ちゃん。ナマちゃん、こんにちは」
森優はさっそくお名前をつけた。受け取った時の彼女の瞳は、ステンドグラスのようにキラキラ光り輝いていた。このぬいぐるみを抱きしめて、頬ずりをし始める。
「ショウコちゃん、Well done! Third time lucky.だね」
「おめでとう、ショウコイル」
「昇子お姉ちゃん、すごーい。ぼくもあのぬいぐるみさん欲しいなぁ」
「おれさま、昇子君はやれば出来るメスブタだと信じてたぜ」
「昇子さん、おめでとうございます。諦めなければ必ず出来るというこの経験を、受験勉強にも活かして欲しいです」
モニター越しに眺めていた教材キャラ達もパチパチ大きく拍手した。
これにて、三人はショッピングモールをあとにしたのだった。
☆
「ショウコちゃん、今日は楽しかった?」
家に帰って自室に入ると、昇子はさっそくサムに質問される。
「まっ、まあ。楽しかったよ」
「昇子さん、とても幸せそうですね」
伊呂波は昇子の満足げな表情を見て、にっこり微笑んだ。
「みんなに、お土産買って来たよ。勉強でお世話になってるお礼がしたくて。ママには帆夏と学実に渡すって言って怪しまれないようにした」
昇子は苦笑いしつつ手提げ鞄の中から、ビニール袋にいくつか入れられたチョコレートやクッキー、キャンディーなどの菓子箱を取り出した。
「わぁーい、昇子お姉ちゃん大好きぃっ。この飴、辛いやつを引く確率八分の一かぁ。気をつけなきゃ」
「ショウコイル、気が利くね」
「さすが昇子君、大和撫子」
「サンキュー、ショウコちゃん。食べ過ぎには気をつけるね」
「ありがとうございます、昇子さん」
教材キャラみんなから大いに感謝される。
「どういたしまして」
「さあ昇子君、今日いっぱい遊んだ分、これからしっかり家庭学習だぜ」
「えっ、そんな。今日は私、疲れたし……」
「ダメだ! そんな考えで休ませると怠け癖が付いてしまうぜっ!」
やる気なさそうな態度を取った昇子に、玲音は厳しい口調で注意する。
「さあショウコちゃん、レッツスタディー。モユちゃんもちゃんと気を切り替えて家庭学習に励んでるよ」
サムはそう伝えると、昇子にモニター画面を見せた。
机に向かい、一生懸命数学の問題を解いている森優の姿が映し出されていた。
「……分かったよ。私も頑張るよ」
それを見て、昇子は自分もやらなきゃという意識が高まった。自ら椅子に座り、シャーペンを手に取ると、さっそく苦手な英語の演習問題を解いていく。
「ショウコちゃん、なんでそこまた間違えるの? canとか助動詞の後は主語がheとかsheとかの三人称単数になっても動詞の原形が来るって昨日教えたでしょ。中一の学習内容だよ。You idiot! I‘m disappointed with you.」
「あいてててっ」
サムに髪の毛を引っ張られたりほっぺたを抓られたりして厳しく注意されながらも、昇子は心の中で感謝していた。
「マッ、ママッ! なんで、ここに……」
シネコン入口前でばったり出会い、昇子はびっくり仰天。
「生徒達だけで映画館に立ち寄ってはいけないって生徒手帳に書かれてたから、おば様に同伴してくれるようにお願いしておいたの」
森優は嬉しそうに伝えた。
「そっ、そういうことかぁ。でも、確かにその通りだけど、それを忠実に守る必要はないと思うけど……」
「森優ちゃん、とってもいい子ね」
母はにっこり微笑む。
「私は、非常に気まずいんだけど……」
昇子は当然のようにそう感じた。
「森優ちゃんは、どの映画が見たいのかな?」
「あれです。おば様」
母に尋ねられると、森優はいくつかあるうち対象のポスターを指差す。
「えっ、あれを見るの?」
昇子は少し動揺した。
「よかったわね、昇子が好きそうなやつで」
母はくすっと笑う。
「昇子ちゃん、女の子がいっぱい出るアニメ大好きでしょ?」
「たっ、確かに大好きだけど、こういう、子ども向けのじゃなくて……」
「わたしも大好きなの。わたしが今日、昇子ちゃんを遊びに誘った理由は、いっしょにこれが見たかったからなんだ。さすがに中学三年生にもなってこれ観に行くのは気が引けるから悩んでたんだけど、観に行かないと絶対後悔すると思って」
森優は満面の笑みを浮かべ、弾んだ気分で打ち明ける。それは一月ほど前、ゴールデンウィークに公開され来週金曜日で上映終了となる女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。
「大人一枚、中学生二枚で」
チケット売り場にて母が三人分の入館料金を支払うと、受付の人がチケットと共に入館者全員についてくる、キラキラして可愛らしいおもちゃのペンダントをプレゼントしてくれた。
これは子どもっぽ過ぎるよね。幼稚園児のおもちゃだもんねぇ。
昇子はそう思うも、嬉しくも感じていた。
「森優ちゃん、昇子、何かお菓子と飲み物いる?」
「わたしはいらないです。お昼お腹いっぱい食べたので」
「私もいいよ」
「そっか」
こうして三人は売店前は素通りし、お目当ての映画がまもなく上映される4番ホールへ。薄暗い中を前へ前へと進んでいく。
「森優ちゃん。なんか周り、幼い子ばっかりだから、やっぱりやめた方が……」
「まあまあ昇子ちゃん。気にしなくてもいいじゃない。童心に帰ろう」
昇子は森優に手をぐいぐい引っ張られていく。
「昔といっしょね」
母はその様子を微笑ましく眺めていた。
前から五列目の席で、昇子は母と森優に挟まれる形で座った。
なんか視線を感じるような……。
昇子は落ち着かない様子だった。他に三十名ほどいたお客さんの、八割くらいは就学前だろう女の子とその保護者だったからだ。
上映中。
「やはりアニメの中では物理法則が完全に無視されてるな。ツッコミどころ満載だぜ。さっきのステッキ振るシーンとか」
「ぼくあのおもちゃ、すごく欲しいーっ!」
「このアニメ、女児向けと謳いつつ、ブルーレイディスクの販売収益を上げるためなのかさりげなく大きなお友達も対象にしてるよな」
「確かにキャラデザがそんな感じだね。声優さんのヴォイス、聞きたいなぁ。これじゃ大正時代のサイレント映画だよ」
摩偶真、流有十、玲音、サムも昇子の自室からモニター越しに食い入るように鑑賞する。
映画をタダで鑑賞するのは、良くないと思うのですが……。
伊呂波も心の中で罪悪感に駆られつつも、ちゃっかり楽しんでいた。
※
上映時間六〇分ちょっとの映画を見終えて、
「しゃべる野菜や果物やお菓子さんもすごくかわいかったね。とっても面白かったよ。昇子ちゃんもそう思うでしょ?」
森優は大満足な気分で感想を伝える。
「まあ、思ったよりは、楽しめたよ。私も釘付けになったシーンあったから。好きな声優さんも出てたし。ちっちゃい子どもの騒ぎ声がうるさかったけど」
「昇子も昔はあんな感じだったのよ。森優ちゃんは大人しく見てたけど」
「そうだったかなぁ?」
母ににっこり笑顔で突っ込まれ、昇子はちょっぴり照れてしまう。
「おば様、子ども向けに作られたアニメって、いくつになって見ても面白いですよね?」
「そうね。思ったよりも良質な映画だったわ」
「わたし、子ども向けアニメ大好きなんです。アン○ンマンとかド○えもん、今でも毎週欠かさず録画もして見てます。あっ、あのナマケモノのぬいぐるみさんとってもかわいい! お部屋に飾りたいな」
森優は付近のクレーンゲームコーナーに近寄り、透明ケースに手のひらを張り付けて叫ぶ。
「森優ちゃん、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみの間に少し埋もれてるから、難易度は相当高いよ」
「大丈夫! むしろ取りがいがあるよ」
昇子のアドバイスに対し、森優はきりっとした表情で自信満々に答えた。コイン投入口に百円硬貨を入れ、押しボタンに両手を添える。
「森優ちゃん、頑張れ!」
「落ち着いてやれば、きっと取れるわ」
昇子と母はすぐ後ろ側で応援する。
「わたし、絶対取るよーっ!」
森優は慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。
続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。
「あっ、失敗しちゃった。もう一度」
ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。クレーンは自動的に最初の位置へと戻っていく。
「もう一回やりますっ!」
森優はとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。
「今度こそ絶対とるよ!」
この作業をさらに繰り返す。森優は一度や二度の失敗じゃへこたれない頑張り屋さんらしい。けれども回を得るごとに、
「全然取れない……」
森優は徐々に泣き出しそうな表情へ変わっていった。
「昇子、あんた昔、カー○ィのお人形さんを森優ちゃんに取ってもらったことがあるでしょ。恩返ししてあげなさい」
母が肩をポンッと叩いて命令してくる。
「でも、私、あれはちょっと無理かな。真ん中のシマウマさんのなら、なんとかなりそうだけど」
昇子は困った表情で呟いた。
「昇子ちゃん、お願いっ!」
「……わっ、分かった」
森優にうるうるした瞳で見つめられ、昇子のやる気が少し高まった。
「ありがとう。昇子ちゃん」
するとたちまち森優のお顔に、笑みがこぼれた。
「昇子お姉ちゃん、さすが」
「ショウコちゃん、very kindだね」
「昇子さん、良いお人です。この場面は昇子さんの方がお姉さんに見えますね」
「昇子君、心優しいメスブタだな」
「モユリア樹脂もよく健闘してたぜ」
その様子を、教材キャラ達もモニター越しに楽しそうに眺めていた。
まずい、全く取れる気がしないよ。
昇子の一回目、森優お目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。
「昇子ちゃんなら、絶対取れるはず!」
背後から森優に、期待の眼差しで見つめられる。
どうしよう。
昇子は困ってしまったが、
《諦めず、根気強く》
ふと、あの教材をネットで探している時に学実から言われた言葉を思い出した。
よぉし、やってやるぞっ!
それを糧に昇子は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。
しかしまた失敗した。アームには触れられたものの。けれども昇子はめげない。
「昇子ちゃん、頑張れ。さっきよりは惜しいところまでいったよ」
森優からエールが送られ、
「任せて。次こそは取るから」
昇子はさらにやる気が上がった。
三度目の挑戦後。
「……まさか、本当にこんなにあっさりいけるとは思わなかった」
取出口に、ポトリと落ちたナマケモノのぬいぐるみ。
昇子は、森優お目当ての景品をゲットすることが出来た。ついにやり遂げたのだ。
「やったぁ!」
森優は大喜びの声を上げ、バンザイのポーズを取った。
「昇子、やるわね。受験勉強もこの調子でね」
母もビデオカメラを回しながら褒めてあげた。
「たまたま取れただけよ。先に、森優ちゃんが、少しだけ取り易いところに動かしてくれたおかげだよ。はい、森優ちゃん」
昇子は照れくさそうに語り、森優に手渡す。
「ありがとう、昇子ちゃん。ナマちゃん、こんにちは」
森優はさっそくお名前をつけた。受け取った時の彼女の瞳は、ステンドグラスのようにキラキラ光り輝いていた。このぬいぐるみを抱きしめて、頬ずりをし始める。
「ショウコちゃん、Well done! Third time lucky.だね」
「おめでとう、ショウコイル」
「昇子お姉ちゃん、すごーい。ぼくもあのぬいぐるみさん欲しいなぁ」
「おれさま、昇子君はやれば出来るメスブタだと信じてたぜ」
「昇子さん、おめでとうございます。諦めなければ必ず出来るというこの経験を、受験勉強にも活かして欲しいです」
モニター越しに眺めていた教材キャラ達もパチパチ大きく拍手した。
これにて、三人はショッピングモールをあとにしたのだった。
☆
「ショウコちゃん、今日は楽しかった?」
家に帰って自室に入ると、昇子はさっそくサムに質問される。
「まっ、まあ。楽しかったよ」
「昇子さん、とても幸せそうですね」
伊呂波は昇子の満足げな表情を見て、にっこり微笑んだ。
「みんなに、お土産買って来たよ。勉強でお世話になってるお礼がしたくて。ママには帆夏と学実に渡すって言って怪しまれないようにした」
昇子は苦笑いしつつ手提げ鞄の中から、ビニール袋にいくつか入れられたチョコレートやクッキー、キャンディーなどの菓子箱を取り出した。
「わぁーい、昇子お姉ちゃん大好きぃっ。この飴、辛いやつを引く確率八分の一かぁ。気をつけなきゃ」
「ショウコイル、気が利くね」
「さすが昇子君、大和撫子」
「サンキュー、ショウコちゃん。食べ過ぎには気をつけるね」
「ありがとうございます、昇子さん」
教材キャラみんなから大いに感謝される。
「どういたしまして」
「さあ昇子君、今日いっぱい遊んだ分、これからしっかり家庭学習だぜ」
「えっ、そんな。今日は私、疲れたし……」
「ダメだ! そんな考えで休ませると怠け癖が付いてしまうぜっ!」
やる気なさそうな態度を取った昇子に、玲音は厳しい口調で注意する。
「さあショウコちゃん、レッツスタディー。モユちゃんもちゃんと気を切り替えて家庭学習に励んでるよ」
サムはそう伝えると、昇子にモニター画面を見せた。
机に向かい、一生懸命数学の問題を解いている森優の姿が映し出されていた。
「……分かったよ。私も頑張るよ」
それを見て、昇子は自分もやらなきゃという意識が高まった。自ら椅子に座り、シャーペンを手に取ると、さっそく苦手な英語の演習問題を解いていく。
「ショウコちゃん、なんでそこまた間違えるの? canとか助動詞の後は主語がheとかsheとかの三人称単数になっても動詞の原形が来るって昨日教えたでしょ。中一の学習内容だよ。You idiot! I‘m disappointed with you.」
「あいてててっ」
サムに髪の毛を引っ張られたりほっぺたを抓られたりして厳しく注意されながらも、昇子は心の中で感謝していた。