昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
第一話 中間テスト撃沈 昇子、昭和的なスパルタ教育進学塾へ強制入塾されちゃう危機
「昇子ぉっ、あんた受験生としての自覚は持ってるのっ? またこんなひどい点取って。もっと本気で勉強せな、あかんやないのっ!」
「ママ、これでも平均点よりは上だったんよ。平均五七しかなかったの」
五月も終わりに近づいたある日の夕方、昇子は自宅リビングにて母から厳しく咎められていた。引き金となったのは、昇子の在籍する市立鴎塚中学校三年三組で今日返却された、一学期中間テスト数学、六一点の答案である。
ソファに座る二人、ローテーブル越しに向かい合う。
「昇子は西高を目指しとんやなかったっけ?」
母は強い口調で問うた。
「確かにそうだけど」
「ほな平均ほんのちょっと超えれたくらいで満足してちゃぁ、あかんの分かっとる?」
「分かってるって」
うるさいなぁ。と心の中で思いながら、昇子は薄ら笑いを浮かべて不愉快そうに答える。
「昇子はやれば出来るめっちゃ賢い子なんやから、ここで本腰入れて頑張らなきゃね。ところで昇子、あの約束は覚えとる?」
母は険しい表情から、にこにこ顔へと急変化した。
「えっ……何の、ことかな?」
昇子は視線を天井に向けて、忘れた振りをしてみる。
「とぼけたって無駄よ。証拠はちゃぁんと残しとんやから」
母はそう告げたあと、自分のスマホを昇子の眼前にかざすと同時に音声データの再生アイコンをタップする。
『昇子、今度の中間テストでも総合得点四〇〇なかったら、塾へ放り込むからね』
『分かったよ、ママ。それくらい楽勝だって』
こんな音声が流れたあと、
「このことよー」
母はニカッと微笑みかけてくる。
「……録音、してたの。いつの間に?」
昇子の顔は引き攣った。彼女はあのやり取りをしっかりと覚えていたのだ。
「ふふふ、言い逃れ出来へんようにこれくらい対策済みよ。昇子、これで四教科返って来たわよね。今、合計いくらかなぁ?」
「……三〇七点」
昇子が俯き加減でぼそぼそと打ち明けると、
「はい、塾行き確定っ!」
母は明るい声で嬉しそうに告げた。
「まだ英語が残ってるでしょ。それで九三点以上取ったら、四〇〇超えるでしょ」
「そんなに取れるはずがないでしょ。この前は五二点しかなかったんやし」
「大丈夫だって、今回は解答欄全部埋めたから」
「埋めりゃぁいいってもんでもないでしょ。昇子、次の期末テストも悪かったら、あんたのお部屋にある大量のジャ○プとエッチなマンガ、全部捨てちゃうからね」
「えっ! そんなぁっ。そこまですることはないでしょ」
「だって昇子、あんないかがわしい本をいーっぱい買い集めるようになってから、テストの点が急激に下がり始めたやない」
「それは全然関係ないって」
「大いにありますっ!」
「……習う内容も、だんだん難しくなって来てるんだから、点数下がってくるのは当たり前でしょ。学年平均だって一年の時のテストより低いし、みんな悪くなってるんよ」
「見苦しい言い訳ね。森優(もゆ)ちゃんは新入生テストの頃から、今でも相変わらず高得点を維持し続けてるでしょ?」
困惑顔で弱々しく反論する昇子に、母は得意げな表情で反論し返す。
「確かにそうだけど。森優ちゃんは、私とは地頭が違うの」
昇子は迷惑そうに振る舞い、数学の答案を取り返すと足早にリビングから逃げていった。
森優ちゃんとは、三軒隣に住む同学年の幼馴染だ。フルネームは安福森優。森優も昇子と同じく西高=県立松葉丘西高校を第一志望にしている。二人ともその最たる理由はごく単純、家から一番近いそれなりの進学校だからだ。二人が通う鴎塚中学の通学区域内に立地していることもあって、他の鴎塚中生にとっても人気の進学先となっている。
確かに定期テストの数学でさえこの点数じゃ、西高は難しいよねぇ。
昇子は答案を眺めつつ苦笑いを浮かべながら二階の自室に足を踏み入れた。
広さ八帖のフローリング。窓際の学習机の上は教科書やノート、筆記用具、プリント類などが乱雑に散りばめられていて、勉強する環境には相応しくない有様となっている。机棚にあるヒツジさんイルカさんトナカイさんの可愛らしいぬいぐるみ、サンタクロースと雪だるまのお人形。チョコやクッキー、ケーキ、パン、ドーナッツ、シュークリーム、アップルパイ、アイスクリームを模ったスイーツアクセサリー、造花なんかはきれいに飾られてあるのだけれど。
机だけを見ると普通の女の子らしいお部屋の様相と思われるだろう。しかし、それ以外の場所に目を移すとアニヲタ趣味を窺わせる光景が広がっているのだ。
本棚には児童・少年・少女・青年コミックスや雑誌、同人誌、ラノベ、絵本、児童書などが合わせて五百冊以上は並べられてあるものの、普通の女子中学生が読みそうなティーン向けファッション誌は一冊も見当たらない。昇子の所有する雑誌といえばアニメ・声優・漫画系なのだ。アニソンCDも何枚か所有しており、専用の収納ケースに並べられていた。DVD/ブルーレイプレーヤー&二四V型液晶テレビも置かれてある。
本棚上や収納ケース上にはカッコかわいい系ガチャポンやフィギュアが合わせて十数体飾られていて、さらに壁にも人気声優やアニメのポスターが何枚か貼られてある。美少女系のみならず、男性キャラがメインのアニメでもお気に入りなのが多いのは女の子らしいところだ。
こんなプチ腐女子的なプライベート空間を持つ昇子は、背丈は一四三センチくらい。丸っこいお顔、くりくりした目、ほんのり栗色なおかっぱ頭をいつもメロンなどのチャーム付きダブルリボンで飾り、小学生に間違えられても、いやむしろ中学生に見られる方がもっと不思議なくらいあどけない風貌なのだ。
ママ、私の部屋、ジャ○プ本誌は一冊も置いて無いんだけどなぁ……。
一段ベッドに腰掛けた昇子は、向かいの本棚を眺めながら心の中で突っ込む。
☆
翌朝、七時五五分頃。
「昇子、塾のことやけど、〝公立高校受験対策週五日五教科フルコース〟で申し込んでおくわね。土日も無料で自習室が使えて超お得みたいよ」
「待ってよママ、英語のテストは今日返ってくると思うけど、絶対九三点以上あるから」
「ふふふ。それじゃあその結果が出るまで申し込むのを一応待っててあげるわ。どうせ無駄やろうけど」
「ママァ、少しは期待してよ」
昇子は母とキッチン横のテーブルで朝食を取りながら、こんな楽しくない会話を弾ませていた。父は毎朝七時頃には家を出るため、昇子の平日朝食時はいつも母と二人きりなのだ。
まもなく八時になろうという頃、ピンポーン♪ と玄関チャイムが鳴らされ、
「おはようございまーす」
一人のお客さんが訪れてくる。
森優ちゃんだった。学校のある日は毎朝、この時間くらいに昇子を迎えに来てくれる。
面長ぱっちり垂れ目、細長八の字眉、丸っこい小さなおでこがチャームポイント。ふんわりとしたほんのり茶色な髪を小さく巻いて、アジサイ柄のシュシュで二つ結びに束ねているのがいつものヘアスタイル。背丈は一六〇センチくらいで、おっとりのんびりとした雰囲気が感じられる子なのだ。
「おはよう森優ちゃん、今日から夏服なのね」
「はい、暑くなって来たので」
昇子の母に身なりをまじまじと眺められ、森優はちょっぴり照れくさそうにする。
昇子達の通う学校では今、制服移行期間中だ。森優は昨日まで着用していた女子用冬服である濃紺色セーラー服から、夏用の半袖ポロシャツと水色吊りスカートへと衣替えしていた。
昇子はまだセーラースカートに春秋冬兼用長袖白色ワイシャツを着ていた。
ちなみに男子用冬服は真っ黒な詰襟学生服だ。
「あの、おば様。昇子ちゃんの成績をあまりアップさせられなくてごめんなさい。わたしの教え方が悪かったみたいで」
森優は昇子の母に向かってぺこんと頭を下げた。
「森優ちゃんは全然気にしなくていいのよ。相変わらずテスト前でもジャ○プやマンガばっかり読んで勉強サボった昇子が悪いんやから」
自責の念に駆られている森優を、母は笑顔で慰めてあげる。
森優はとても心優しい子なのだ。
……ママ、私、ジャ○プは一冊も持ってないって。
二人の会話は食事中の昇子の耳にもしっかり届いていた。
「ママ、これでも平均点よりは上だったんよ。平均五七しかなかったの」
五月も終わりに近づいたある日の夕方、昇子は自宅リビングにて母から厳しく咎められていた。引き金となったのは、昇子の在籍する市立鴎塚中学校三年三組で今日返却された、一学期中間テスト数学、六一点の答案である。
ソファに座る二人、ローテーブル越しに向かい合う。
「昇子は西高を目指しとんやなかったっけ?」
母は強い口調で問うた。
「確かにそうだけど」
「ほな平均ほんのちょっと超えれたくらいで満足してちゃぁ、あかんの分かっとる?」
「分かってるって」
うるさいなぁ。と心の中で思いながら、昇子は薄ら笑いを浮かべて不愉快そうに答える。
「昇子はやれば出来るめっちゃ賢い子なんやから、ここで本腰入れて頑張らなきゃね。ところで昇子、あの約束は覚えとる?」
母は険しい表情から、にこにこ顔へと急変化した。
「えっ……何の、ことかな?」
昇子は視線を天井に向けて、忘れた振りをしてみる。
「とぼけたって無駄よ。証拠はちゃぁんと残しとんやから」
母はそう告げたあと、自分のスマホを昇子の眼前にかざすと同時に音声データの再生アイコンをタップする。
『昇子、今度の中間テストでも総合得点四〇〇なかったら、塾へ放り込むからね』
『分かったよ、ママ。それくらい楽勝だって』
こんな音声が流れたあと、
「このことよー」
母はニカッと微笑みかけてくる。
「……録音、してたの。いつの間に?」
昇子の顔は引き攣った。彼女はあのやり取りをしっかりと覚えていたのだ。
「ふふふ、言い逃れ出来へんようにこれくらい対策済みよ。昇子、これで四教科返って来たわよね。今、合計いくらかなぁ?」
「……三〇七点」
昇子が俯き加減でぼそぼそと打ち明けると、
「はい、塾行き確定っ!」
母は明るい声で嬉しそうに告げた。
「まだ英語が残ってるでしょ。それで九三点以上取ったら、四〇〇超えるでしょ」
「そんなに取れるはずがないでしょ。この前は五二点しかなかったんやし」
「大丈夫だって、今回は解答欄全部埋めたから」
「埋めりゃぁいいってもんでもないでしょ。昇子、次の期末テストも悪かったら、あんたのお部屋にある大量のジャ○プとエッチなマンガ、全部捨てちゃうからね」
「えっ! そんなぁっ。そこまですることはないでしょ」
「だって昇子、あんないかがわしい本をいーっぱい買い集めるようになってから、テストの点が急激に下がり始めたやない」
「それは全然関係ないって」
「大いにありますっ!」
「……習う内容も、だんだん難しくなって来てるんだから、点数下がってくるのは当たり前でしょ。学年平均だって一年の時のテストより低いし、みんな悪くなってるんよ」
「見苦しい言い訳ね。森優(もゆ)ちゃんは新入生テストの頃から、今でも相変わらず高得点を維持し続けてるでしょ?」
困惑顔で弱々しく反論する昇子に、母は得意げな表情で反論し返す。
「確かにそうだけど。森優ちゃんは、私とは地頭が違うの」
昇子は迷惑そうに振る舞い、数学の答案を取り返すと足早にリビングから逃げていった。
森優ちゃんとは、三軒隣に住む同学年の幼馴染だ。フルネームは安福森優。森優も昇子と同じく西高=県立松葉丘西高校を第一志望にしている。二人ともその最たる理由はごく単純、家から一番近いそれなりの進学校だからだ。二人が通う鴎塚中学の通学区域内に立地していることもあって、他の鴎塚中生にとっても人気の進学先となっている。
確かに定期テストの数学でさえこの点数じゃ、西高は難しいよねぇ。
昇子は答案を眺めつつ苦笑いを浮かべながら二階の自室に足を踏み入れた。
広さ八帖のフローリング。窓際の学習机の上は教科書やノート、筆記用具、プリント類などが乱雑に散りばめられていて、勉強する環境には相応しくない有様となっている。机棚にあるヒツジさんイルカさんトナカイさんの可愛らしいぬいぐるみ、サンタクロースと雪だるまのお人形。チョコやクッキー、ケーキ、パン、ドーナッツ、シュークリーム、アップルパイ、アイスクリームを模ったスイーツアクセサリー、造花なんかはきれいに飾られてあるのだけれど。
机だけを見ると普通の女の子らしいお部屋の様相と思われるだろう。しかし、それ以外の場所に目を移すとアニヲタ趣味を窺わせる光景が広がっているのだ。
本棚には児童・少年・少女・青年コミックスや雑誌、同人誌、ラノベ、絵本、児童書などが合わせて五百冊以上は並べられてあるものの、普通の女子中学生が読みそうなティーン向けファッション誌は一冊も見当たらない。昇子の所有する雑誌といえばアニメ・声優・漫画系なのだ。アニソンCDも何枚か所有しており、専用の収納ケースに並べられていた。DVD/ブルーレイプレーヤー&二四V型液晶テレビも置かれてある。
本棚上や収納ケース上にはカッコかわいい系ガチャポンやフィギュアが合わせて十数体飾られていて、さらに壁にも人気声優やアニメのポスターが何枚か貼られてある。美少女系のみならず、男性キャラがメインのアニメでもお気に入りなのが多いのは女の子らしいところだ。
こんなプチ腐女子的なプライベート空間を持つ昇子は、背丈は一四三センチくらい。丸っこいお顔、くりくりした目、ほんのり栗色なおかっぱ頭をいつもメロンなどのチャーム付きダブルリボンで飾り、小学生に間違えられても、いやむしろ中学生に見られる方がもっと不思議なくらいあどけない風貌なのだ。
ママ、私の部屋、ジャ○プ本誌は一冊も置いて無いんだけどなぁ……。
一段ベッドに腰掛けた昇子は、向かいの本棚を眺めながら心の中で突っ込む。
☆
翌朝、七時五五分頃。
「昇子、塾のことやけど、〝公立高校受験対策週五日五教科フルコース〟で申し込んでおくわね。土日も無料で自習室が使えて超お得みたいよ」
「待ってよママ、英語のテストは今日返ってくると思うけど、絶対九三点以上あるから」
「ふふふ。それじゃあその結果が出るまで申し込むのを一応待っててあげるわ。どうせ無駄やろうけど」
「ママァ、少しは期待してよ」
昇子は母とキッチン横のテーブルで朝食を取りながら、こんな楽しくない会話を弾ませていた。父は毎朝七時頃には家を出るため、昇子の平日朝食時はいつも母と二人きりなのだ。
まもなく八時になろうという頃、ピンポーン♪ と玄関チャイムが鳴らされ、
「おはようございまーす」
一人のお客さんが訪れてくる。
森優ちゃんだった。学校のある日は毎朝、この時間くらいに昇子を迎えに来てくれる。
面長ぱっちり垂れ目、細長八の字眉、丸っこい小さなおでこがチャームポイント。ふんわりとしたほんのり茶色な髪を小さく巻いて、アジサイ柄のシュシュで二つ結びに束ねているのがいつものヘアスタイル。背丈は一六〇センチくらいで、おっとりのんびりとした雰囲気が感じられる子なのだ。
「おはよう森優ちゃん、今日から夏服なのね」
「はい、暑くなって来たので」
昇子の母に身なりをまじまじと眺められ、森優はちょっぴり照れくさそうにする。
昇子達の通う学校では今、制服移行期間中だ。森優は昨日まで着用していた女子用冬服である濃紺色セーラー服から、夏用の半袖ポロシャツと水色吊りスカートへと衣替えしていた。
昇子はまだセーラースカートに春秋冬兼用長袖白色ワイシャツを着ていた。
ちなみに男子用冬服は真っ黒な詰襟学生服だ。
「あの、おば様。昇子ちゃんの成績をあまりアップさせられなくてごめんなさい。わたしの教え方が悪かったみたいで」
森優は昇子の母に向かってぺこんと頭を下げた。
「森優ちゃんは全然気にしなくていいのよ。相変わらずテスト前でもジャ○プやマンガばっかり読んで勉強サボった昇子が悪いんやから」
自責の念に駆られている森優を、母は笑顔で慰めてあげる。
森優はとても心優しい子なのだ。
……ママ、私、ジャ○プは一冊も持ってないって。
二人の会話は食事中の昇子の耳にもしっかり届いていた。