昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
いつもと変わらず八時ちょっと過ぎに出発した森優と昇子は、学校まで徒歩約十七分の通学路を校則に従い一列で歩く。この時、森優が前を行くことが多いのだ。
「昇子ちゃん、今日はあまり元気がないね。テストのことでおば様にいっぱい叱られたんだね」
森優は後ろを振り返りながら気遣うように話しかけてくる。
「いや、叱られたことより、塾行かされることが百パー確定したから」
「そうなんだ。昇子ちゃん、塾には行きたくないんだね?」
「うん。でも、これはママと約束したことだから、行くしかないよ」
昇子はしょんぼり顔を浮かべ、沈んだ声で答えた。
「それじゃあ、わたしも昇子ちゃんといっしょに通おうっと♪」
「絶対やめた方がいいよ。ママが私に行かせようとしてる塾は、烈學館ってとこだから」
「えっ! そこなの? じゃあわたしは……行かなーい」
森優は途端に顔を蒼白させ、すぐさま前言撤回した。
「昇子ちゃん、大丈夫? その塾って、未だ昭和的な教育方針で先生がものすごーく怖いって噂のとこでしょ? ちゃんとやって行けそう?」
続けて心配そうに質問する。
「入ってみなきゃ分からないなぁ」
昇子はその塾のことを詳しくは知らないため、こう答えるしかなかった。
「そっか。頑張ってね、昇子ちゃん。おば様は昇子ちゃんの将来のためを思って、塾へ行かせようとしてるんだと思うから。でも、身の危険を感じたらすぐに辞めなきゃダメだよ。PTSDになっちゃったら後々大変だからね」
「……うん。まだ行かされると正式に決まったわけじゃないけどね」
森優に真剣な眼差しでアドバイスされ、昇子はちょっぴり困惑してしまった。
「そういえば昇子ちゃん、今日までに提出の数学のプリントは、全部出来てる?」
「いやぁ、それが、分からない問題が多くて、三分の一くらい空欄なの」
「じゃあ写させてあげるよ」
「ありがとう。いつもごめんね、いろいろ迷惑掛けて」
「全然気にしなくていいよ昇子ちゃん。それにしても今日は朝からけっこう暑いよね?」
「もうすぐ六月だからね。私も今日は半袖にすればよかったな」
他にもいろいろ取り留めのない会話を弾ませていくうち、学校のすぐ側まで近づいて来た。この二人以外の鴎塚中生達も周りにだんだん増えてくる。
昇子と森優は校舎に入ると、最上階四階にある三年三組の教室へ。幼小中とも同じ学校に通い続けているこの二人は、中学では三年生になって初めて同じクラスになったのだ。
昇子が自分の席に着いてから五分ほどのち、
「やっほー、しょこらぁ」
いつものように中学時代からの親友、友金帆夏(ともかね ほなつ)が登校して来て近寄ってくる。面長で目は細め、ボサッとしたほんのり茶色なウルフカット。背丈は一五七センチくらいで、ちょっぴりぽっちゃりした子だ。
「あっ、おはよう帆夏」
机に突っ伏していた昇子は少し顔を上げ、暗い声で挨拶を返してあげた。彼女が帆夏と同じクラスになったのは中一以来である。当時、帆夏の男女混合出席番号は昇子のすぐ前だった。そのことがきっかけで入学式の日から自然に話し合う機会が出来、お互い仲良くなったというわけだ。(どうでもいい情報だが今クラスは間に野田君がいる)
部活動を選ぶ際、体育が苦手なため運動部には一切興味を示さなかった昇子は、新聞部にするか美術部にするか、森優と同じ図書部にするか悩んでいた。そんな時、帆夏に「うちパソ部に入るから、しょこらもいっしょに入ろうよ」と半ば強引に誘われ、結局当初入る気もなかったパソコン部に入部することに決めたのが中一四月の終わり。その選択により、帆夏との友情をますます深めることが出来たのだが……(友達選び間違えたかなぁ? いや、帆夏と出会えてよかったよ。新しい世界が広がったから)と昇子は今になって反語的に思うことが時々ある。
なぜなら帆夏は、中学入学当時り○ん、な○よし、ち○お、花と○め、マー○レットと三大週刊少年誌くらいしか漫画雑誌の存在を知らず、児童書や絵本が大好きだった純真無垢な昇子に、マニアックな月刊・隔月漫画誌やアニメ雑誌、声優雑誌、さらにはラノベ、BL・百合同人誌、深夜アニメの存在などを教え、そっちの道へと陥れた張本人だからだ。帆夏自身は小学五年生頃からBL・百合同人誌やラノベ、深夜アニメにどっぷり嵌っていたらしい。
「しょこら、今日はいつもより元気ないねぇ。テストのことで母さんに怒られたんやろ?」
帆夏はにこにこ顔&陽気な声で問いかけてくる。
「まあ当たりだけど、それプラスもっと憂鬱なことがあるの」
「へぇ、どんな?」
「私、今回のテストで総合得点四〇〇なかったら、駅前の烈學館って塾に行かされるんだ」
「烈學館って、あの酒呑童子も怯えて泣き出すばり厳しいスパルタ指導で昔から超有名な。そりゃご愁傷様」
「帆夏は親から成績のこと何も言われないの? 帆夏も西高第一志望なんでしょ?」
「まあ、入試本番までまだ九ヶ月以上もあるし、なんとかなるんやないかなぁって母さんと父さんも言うとうし」
「親子共々楽観的ね。私なんか、期末も悪かったら雑誌・マンガ類も全部捨てるってママに脅されたのよ」
昇子は沈んだ声で伝える。
「とうとう来ちゃったかぁ、その告知が。五教科計四〇〇超えって、しょこらの母さんの求めるハードルは高いねぇ」
帆夏は少しだけ同情心が芽生えた。
「私のママ、ア○メディアとかク○コミ投稿マガジンとか、オ○メディアとかシ○フとかビー○ログとか、百○姫とか少年○ースとか、ガン○ンとかも全部〝ジャ○プ〟って呼んでる。ラノベもマンガって呼んでるんよ」
「うちの母さんも似たようなもんやで。プ○ステ5もS〇itchもファ○コンって呼ぶし」
「それ、私んちも同じ。私のママ、まだ四〇代半ばなのに考え方は団塊の世代だよ」
「食事のことを全部〝ちゃんこ〝って言うお相撲さんみたいだね」
森優も昇子の席のそばへ近寄って来て、にこやかな表情で突っ込みを入れた。
「そうそう、まさにそんな感じ」
昇子は苦笑いで同意する。
「おはよう、帆夏ちゃん。朝読の本、ちゃんと持って来た?」
「一応ね」
「昨日みたいに漫画はダメだよ」
「それなら、大丈夫や。今日は夏目漱石の『吾輩は猫である』やから」
「今日はちゃんとした小説だね。えらいねぇ」
「……」
頭をそっとなでられた帆夏は今、ちょっぴり照れていた。彼女は森優に限らず、優しいお姉さんタイプの女の子に話しかけられるとこうなってしまうのだ。
「昇子ちゃん、行く時渡した数学のプリントはもう写し終わった?」
「あっ、まだだ。忘れてた。ごめん森優ちゃん、今すぐやるから」
「焦らなくていいよ。四時間目だからまだ時間たっぷりあるし」
森優が優しくそう言ってくれたその直後、八時半の、朝読書とSHR開始を告げるチャイムが鳴り響く。帆夏と森優他、立っているクラスメート達はぞろぞろ自分の席へ。
「みんな、おはよう!」
ほどなくクラス担任で英語科の古塚(ふるつか)先生がやってくる。背丈は一七五センチくらい、痩せ型、いつもダサい格好でそれほどイケメンでもないけれど、ほんわかしていて優しそうな雰囲気を醸し出している男の先生だ。二八歳の実年齢より若く見え、まだ大学生っぽい若々しさを保っているそんな彼は朝読書の時間の後、いつも通り出欠を取り、諸連絡を伝えた。
「昇子ちゃん、今日はあまり元気がないね。テストのことでおば様にいっぱい叱られたんだね」
森優は後ろを振り返りながら気遣うように話しかけてくる。
「いや、叱られたことより、塾行かされることが百パー確定したから」
「そうなんだ。昇子ちゃん、塾には行きたくないんだね?」
「うん。でも、これはママと約束したことだから、行くしかないよ」
昇子はしょんぼり顔を浮かべ、沈んだ声で答えた。
「それじゃあ、わたしも昇子ちゃんといっしょに通おうっと♪」
「絶対やめた方がいいよ。ママが私に行かせようとしてる塾は、烈學館ってとこだから」
「えっ! そこなの? じゃあわたしは……行かなーい」
森優は途端に顔を蒼白させ、すぐさま前言撤回した。
「昇子ちゃん、大丈夫? その塾って、未だ昭和的な教育方針で先生がものすごーく怖いって噂のとこでしょ? ちゃんとやって行けそう?」
続けて心配そうに質問する。
「入ってみなきゃ分からないなぁ」
昇子はその塾のことを詳しくは知らないため、こう答えるしかなかった。
「そっか。頑張ってね、昇子ちゃん。おば様は昇子ちゃんの将来のためを思って、塾へ行かせようとしてるんだと思うから。でも、身の危険を感じたらすぐに辞めなきゃダメだよ。PTSDになっちゃったら後々大変だからね」
「……うん。まだ行かされると正式に決まったわけじゃないけどね」
森優に真剣な眼差しでアドバイスされ、昇子はちょっぴり困惑してしまった。
「そういえば昇子ちゃん、今日までに提出の数学のプリントは、全部出来てる?」
「いやぁ、それが、分からない問題が多くて、三分の一くらい空欄なの」
「じゃあ写させてあげるよ」
「ありがとう。いつもごめんね、いろいろ迷惑掛けて」
「全然気にしなくていいよ昇子ちゃん。それにしても今日は朝からけっこう暑いよね?」
「もうすぐ六月だからね。私も今日は半袖にすればよかったな」
他にもいろいろ取り留めのない会話を弾ませていくうち、学校のすぐ側まで近づいて来た。この二人以外の鴎塚中生達も周りにだんだん増えてくる。
昇子と森優は校舎に入ると、最上階四階にある三年三組の教室へ。幼小中とも同じ学校に通い続けているこの二人は、中学では三年生になって初めて同じクラスになったのだ。
昇子が自分の席に着いてから五分ほどのち、
「やっほー、しょこらぁ」
いつものように中学時代からの親友、友金帆夏(ともかね ほなつ)が登校して来て近寄ってくる。面長で目は細め、ボサッとしたほんのり茶色なウルフカット。背丈は一五七センチくらいで、ちょっぴりぽっちゃりした子だ。
「あっ、おはよう帆夏」
机に突っ伏していた昇子は少し顔を上げ、暗い声で挨拶を返してあげた。彼女が帆夏と同じクラスになったのは中一以来である。当時、帆夏の男女混合出席番号は昇子のすぐ前だった。そのことがきっかけで入学式の日から自然に話し合う機会が出来、お互い仲良くなったというわけだ。(どうでもいい情報だが今クラスは間に野田君がいる)
部活動を選ぶ際、体育が苦手なため運動部には一切興味を示さなかった昇子は、新聞部にするか美術部にするか、森優と同じ図書部にするか悩んでいた。そんな時、帆夏に「うちパソ部に入るから、しょこらもいっしょに入ろうよ」と半ば強引に誘われ、結局当初入る気もなかったパソコン部に入部することに決めたのが中一四月の終わり。その選択により、帆夏との友情をますます深めることが出来たのだが……(友達選び間違えたかなぁ? いや、帆夏と出会えてよかったよ。新しい世界が広がったから)と昇子は今になって反語的に思うことが時々ある。
なぜなら帆夏は、中学入学当時り○ん、な○よし、ち○お、花と○め、マー○レットと三大週刊少年誌くらいしか漫画雑誌の存在を知らず、児童書や絵本が大好きだった純真無垢な昇子に、マニアックな月刊・隔月漫画誌やアニメ雑誌、声優雑誌、さらにはラノベ、BL・百合同人誌、深夜アニメの存在などを教え、そっちの道へと陥れた張本人だからだ。帆夏自身は小学五年生頃からBL・百合同人誌やラノベ、深夜アニメにどっぷり嵌っていたらしい。
「しょこら、今日はいつもより元気ないねぇ。テストのことで母さんに怒られたんやろ?」
帆夏はにこにこ顔&陽気な声で問いかけてくる。
「まあ当たりだけど、それプラスもっと憂鬱なことがあるの」
「へぇ、どんな?」
「私、今回のテストで総合得点四〇〇なかったら、駅前の烈學館って塾に行かされるんだ」
「烈學館って、あの酒呑童子も怯えて泣き出すばり厳しいスパルタ指導で昔から超有名な。そりゃご愁傷様」
「帆夏は親から成績のこと何も言われないの? 帆夏も西高第一志望なんでしょ?」
「まあ、入試本番までまだ九ヶ月以上もあるし、なんとかなるんやないかなぁって母さんと父さんも言うとうし」
「親子共々楽観的ね。私なんか、期末も悪かったら雑誌・マンガ類も全部捨てるってママに脅されたのよ」
昇子は沈んだ声で伝える。
「とうとう来ちゃったかぁ、その告知が。五教科計四〇〇超えって、しょこらの母さんの求めるハードルは高いねぇ」
帆夏は少しだけ同情心が芽生えた。
「私のママ、ア○メディアとかク○コミ投稿マガジンとか、オ○メディアとかシ○フとかビー○ログとか、百○姫とか少年○ースとか、ガン○ンとかも全部〝ジャ○プ〟って呼んでる。ラノベもマンガって呼んでるんよ」
「うちの母さんも似たようなもんやで。プ○ステ5もS〇itchもファ○コンって呼ぶし」
「それ、私んちも同じ。私のママ、まだ四〇代半ばなのに考え方は団塊の世代だよ」
「食事のことを全部〝ちゃんこ〝って言うお相撲さんみたいだね」
森優も昇子の席のそばへ近寄って来て、にこやかな表情で突っ込みを入れた。
「そうそう、まさにそんな感じ」
昇子は苦笑いで同意する。
「おはよう、帆夏ちゃん。朝読の本、ちゃんと持って来た?」
「一応ね」
「昨日みたいに漫画はダメだよ」
「それなら、大丈夫や。今日は夏目漱石の『吾輩は猫である』やから」
「今日はちゃんとした小説だね。えらいねぇ」
「……」
頭をそっとなでられた帆夏は今、ちょっぴり照れていた。彼女は森優に限らず、優しいお姉さんタイプの女の子に話しかけられるとこうなってしまうのだ。
「昇子ちゃん、行く時渡した数学のプリントはもう写し終わった?」
「あっ、まだだ。忘れてた。ごめん森優ちゃん、今すぐやるから」
「焦らなくていいよ。四時間目だからまだ時間たっぷりあるし」
森優が優しくそう言ってくれたその直後、八時半の、朝読書とSHR開始を告げるチャイムが鳴り響く。帆夏と森優他、立っているクラスメート達はぞろぞろ自分の席へ。
「みんな、おはよう!」
ほどなくクラス担任で英語科の古塚(ふるつか)先生がやってくる。背丈は一七五センチくらい、痩せ型、いつもダサい格好でそれほどイケメンでもないけれど、ほんわかしていて優しそうな雰囲気を醸し出している男の先生だ。二八歳の実年齢より若く見え、まだ大学生っぽい若々しさを保っているそんな彼は朝読書の時間の後、いつも通り出欠を取り、諸連絡を伝えた。