昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
そのあと八時四五分から始まる一時間目。このクラスでは今日は英語の授業が組まれてあるため引き続き彼が受け持つ。
「この間の試験、昨日の晩やっと採点が終わったから返すぞ。待たせてごめんな。今回は高校入試レベルの問題をけっこう出題したけど、難し過ぎたかな? このクラスの平均点は五一点しかなかったぞ。みんなショック受けるなよ。一人だけ百点、九〇点台も三人いたけどな。それじゃ、呼ばれたら取りに来て。石井くん」
古塚先生はこう伝えて、英語の答案を男女混合出席番号一番から順に返却していく。
「灘本さん、西高第一志望ならもっと頑張らなきゃダメだぞ」
十八番の昇子に返すさい、古塚先生は爽やかな表情で忠告した。
「あっ、はい」
やばい、平均すら無いよ。塾行き決定だぁー。
受け取った昇子は点数を眺めると苦笑いを浮かべ、自分の席へと戻っていった。
一時間目が終わり、休み時間が始まると、
「しょこら、英語何点やった?」
さっそく帆夏が昇子の席に近寄って来てからんでくる。
「予想よりもかなり悪かった。三九よ」
昇子はため息まじりに伝えた。
「また負けたぁーっ。うちなんか三二やで」
「帆夏に勝てても全然嬉しくないな。私、四〇〇どころか三五〇すら下回っちゃったよ。社会九一、国語八五あったから絶対四〇〇超えれると思ったんだけどなぁ。前よりは少し上がったんだけどね」
「上がったならまだええやん。うちはワースト記録またも更新、合計二八九やで。ついに実力テストの時ですら未達成の二〇〇点台になってもうたわ~」
「さすがにやばいでしょ、西高志望で三〇〇切るようなら」
「でも西高って確か、部活推薦枠もあったよね? うち、それ使おうと思っとうねんけど」
「あれって、運動部か吹奏楽部か生徒会に所属してないと推薦してもらえないでしょ」
楽天的な帆夏に、昇子はすかさず突っ込む。
「パソ部じゃ無理なの?」
「そうみたい」
「マジで!? 吹奏楽部と同じ文化部やのに待遇が違い過ぎへん?」
「そりゃまあ、パソコン部は世間に評価されるような活動は全くしてないからでしょ」
「言われてみれば、確かに。活動いうても2ちゃんか動画投稿サイトかブルーレイ見とうだけやからね。やばいなぁ、期末テストは本気出さんと。一週間前からゲームとアニメとラノベと同人誌封印して」
「帆夏さんは中間の前も同じことを言ってたよね?」
二人の会話に、昇子のすぐ後ろの席の女子生徒も割り込んで来た。
「そうだっけ? それよりまなみぃ、またしても英語百点取りよって。中間の合計四九八(よんきゅっぱ)やん。すご過ぎ」
「ワタシもまさか満点取れるなんて思わなかったよ。二問自信ないのあったし。こうなると国語で文法問題一問落として、五〇〇点満点今回も達成出来なかったのが本当に悔まれるなぁ」
学実という子だった。彼女は苦笑いで感想を述べる。帆夏にとって学実は、昇子と同じパソコン部仲間なのだ。
「それでまだ不満そうにするなんて、学実は相変わらずの天才振りだよね」
昇子はとても感心していた。同じ幼稚園&小学校出身のため、学実のことは昔からよく知っている。つまり森優も彼女の古い顔馴染みというわけだ。
「うちらとは頭脳の次元が違い過ぎるね。まなみ、神戸女学院行けてたんやないの?」
「いやいや、さすがに神戸女学院はワタシの学力程度では絶対無理だよ。そもそもワタシ、将来は京大を目指してるけど、それまでの過程において有名私立に行く必要はないのでは、と考えてるから、中学受験も一切しなかったの」
「それで高校も第一志望、うちらと同じ公立の西高ってわけなんか?」
「はい。ワタシんちから一番近いので通学の手間も省けるし」
帆夏の質問に、学実は文庫本を読みながら淡々と答えていく。
「それは才能が勿体ないって、まなみならトップ校の東高も余裕やろ。入学枠には限りがあるねんからやめてーな」
帆夏はため息まじりに嘆いた。
「それならご安心下さい。ワタシは理数科の方を受けるつもりなので」
「西の理数って、偏差値七〇越え、この学校からでも毎年二、三人しか受からない超難関特進クラスじゃん。本当にすごいね」
昇子は改めて感心する。
「うちもまなみみたいな天才的頭脳が欲しいわ~。吸収ぅっ!」
帆夏は学実の頭を両サイドから強く押さえ付けた。
「いたたたぁ、帆夏さん、痛いので止めて欲しいよう」
学実は首をブンブン振り動かし抵抗する。
「期末では、どれか一教科だけでも勝ってみせるわ」
そう宣言し、帆夏は両手を離してあげた。
学実のフルネームは神頭学実(こうず まなみ)。苗字からして賢そうな名前の通り、校内テスト総合得点では入学以来学年トップを取り続けている秀才ちゃんだ。背丈は一五〇センチちょっと。丸顔にまん丸な黒縁眼鏡をかけ、ほんのり栗色な髪を三つ編み一つ結びに束ねている。とても真面目そうで賢そう、加えてお淑やかで大人しそうな優等生らしい雰囲気の子なのだ。
「学実ちゃん、すごいねぇ。英語百点」
森優もこの三人の側へぴょこぴょこ歩み寄って来た。
「いっ、いえ。それほどでも……」
学実は照れ笑いを浮かべて謙遜する。彼女は帆夏よりも早く小学四年生頃にはすでに二次創作同人誌やラノベ、深夜アニメの世界にどっぷり嵌っていた。けれども学実がそういったオタク趣味を持っていることは、昇子は中学に入学してパソコン部に入部するまで全く気付かなかったのだ。
「今思えば、一年の一学期は楽勝だったなぁ。私でも四五〇超えれてたから」
「うちもあの時は四〇〇近くは取れてたよ。テスト範囲三年になってから急に増え過ぎだよね。どの教科も一、二年の時に習った内容まで入れて来よるし。そんなんもう忘れたって」
「昇子さん、帆夏さん、高校入試というものは、中学で学習した三年分の内容の全範囲から満遍なく出題されるのよ。これからは一夜漬けでは通用しなくなるよ」
残念そうに話し合う昇子と帆夏に、学実はほんわか笑顔で警告する。
事実、昇子は中学に入った頃は学実や森優ほどではないが成績優秀な方だった。一年一学期に行われた新入生テスト・中間・期末の三回とも、総合得点で学年全八クラス二百六十数名いるうち上位三〇位以内には入れていた。
ところが二学期以降は学年順位がどんどん下がっていき、一年二学期末テストでは五〇位台に。それから約一年後に行われた二年二学期末テストでは、とうとう百位を下回るまでになってしまった。学年末テストではさらに順位を落とし、一二一位に。平均点をわずかに上回る程度だった。成績は昇子という名前に反して下降していく一方だ。
どうしてこうなってしまったのか? その原因は、もはや説明するまでも無く推測出来るだろう。昇子の目指している西高は普通科に一般入試で挑む場合、学科試験以外に内申点も評価されるため大まかな目安ではあるが、校内テストで常に学年順位上位五〇位以内には入れていないと厳しいらしい。
「そういや学実って、塾には全然通ってないんだよね?」
「うん。ワタシ、塾なんて生まれて此の方一度も通ったことないよ」
昇子の質問に、学実はきっぱりと答える。
「マジでっ! 塾一切行かずになんでそんなに成績良いんよ?」
帆夏は驚き顔で尋ねた。
「ワタシ、幼稚園の頃から進○ゼミや○会などの通信教育で学んでいるの」
「そういうことかぁ、納得」
「わたしも塾へは通わずに、小学校の頃から通信教育で勉強してるよ。シールを貯めたら景品が貰えるのが嬉しいよね。すごくやりがいがあったよ」
森優が近寄って来て、満足そうに伝える。
「通信教育はじつに素晴らしいものよ。さらに添削指導もしてくれるし。帆夏さんと昇子さんも今現在未受講ならやってみない?」
「昇子ちゃん、あの塾だったら、通信教育で勉強した方が絶対いいよ。精神的にも身の安全を守るためにも」
「通信教育ねぇ。私も小学校の頃、ポ○ーと進○ゼミ取ってたっていうか、ママに取らされてたけど、途中から教材ほったらかしだったよ」
「うちも、うちもー。あれはすぐに飽きるし、全く意味無かったわ~。景品も特に欲しいなっていうのが無かったし」
「それは勿体ないよ。有効に活用しなきゃ」
笑いながら語る昇子と帆夏に、学実は困惑顔で忠告してあげた。
*
「それじゃ、昇子ちゃん。またね」
「うん。さようなら」