昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
夕方六時半頃。昇子が帰宅しリビングに足を踏み入れるや、
「昇子、今日英語のテスト返って来たんでしょ?」
「うっ、うん」
「見せなさいっ!」
母が厳しい表情で要求している。
「分かったよ」
昇子はしぶしぶ英語の答案用紙をカバンから取り出し、恐る恐るローテーブルの上に置いた。
「……三九点。前より下がっとうやない。何が九三あるよ、位が逆やない」
母は答案の点数欄を眺め、眉をクイッと曲げたのち、ため息を漏らした。
「まあ、その、平均も……」
「平均は関係ないの。こうなることは予想出来とったわ。森優ちゃんは何点やったん?」
「……九六点」
昇子は少し間を置いて、躊躇うように伝えた。
「ほらね、出来る子はどんなに問題が難しくなって平均点が低くなっても良い点取るでしょ。森優ちゃんの点だったら烈學館行き回避出来たのに残念ねぇ。昇子、ママ明日、烈學館に申し込んでくるから」
母はニカッと微笑みながら告げた。
「まっ、待ってママ。塾に行くよりもさぁ……その……通信教育で、いいんじゃ、ないかなぁっと」
昇子は恐る恐る希望を伝えてみる。
「通信教育ってあんた、小学校の頃、ポ○ーと進○ゼミととってあげたけど、全然やらなかったじゃない。どうせ長続きしないに決まっとうわ」
呆れ顔を浮かべられ、予想通りの反応をされた。
「今度は違うのっ! テキストに、美男美女キャラが描かれたやつで……これ、なんだけど」
昇子は焦るように早口調で説明し、プリントアウトした例の広告を取り出してローテーブル上に置いた。
「なんよこれ? オタク系アニメの広告やないの」
またも予想通り、母に険しい表情で突っ込まれた。
「違うのっ! これは、歴とした主要五教科、高校受験対策用の学習教材なのっ! 最近は表紙や中身にカッコかわいい男の子や、かわいい女の子の絵が描かれた学習教材も増えて来てるんよ」
昇子は母の目を見つめながら強く主張する。
「そうなの?」
母はきょとんとなった。
「私がカッコかわいい男の子やかわいい女の子の絵が描かれたアニメやマンガが大好きなことはママよく知ってるでしょ。私、こんな素敵なイラスト付きの学習教材なら、絶対やる気になれるから。これ、やらせて、お願いっ!」
昇子は土下座姿勢になり、懇願する。
「うーん、あんたがそこまで言うのなら……」
母が教材広告を苦笑顔で眺めながらこう呟くと、
よぉし、いいぞぉ。
昇子の口元が緩む。
「パパに相談してからね」
母は続けてこう告げた。
「やっぱりそう来たかぁ」
瞬間、昇子はがっかりした表情を浮かべた。すぐにOKというわけには行かなかった。
それから三〇分ほどのち、
「ただいまー」
昇子の父が帰ってくる。七三分けで眼鏡をかけ、痩せ型。見た目通りの気弱な性格で、優利子のオタク趣味もジャ○ーズやE○ILEなんかに嵌るよりは健全だろうってことで快く容認してくれている寛容で心優しいパパだ。頼りない感じはするけれど、私立中高一貫校の理科教師を勤めていて、生徒や同僚の先生方から高い好感と厚い信頼を集めているみたい。
「灘本先生、昇子がね、塾じゃなくて通信教育で勉強したいって言うんよ」
母はキッチンへやって来た夫に、やや困惑顔で伝えた。
灘本先生:昇子の母が夫を呼ぶ時は、職業柄からかいつもこう呼んでいるのだ。
「そっか。まあ、塾に行けば成績が上がるという保証はないからね。しかも烈學館だろ。そこって相当厳しい塾らしいし、昇子みたいな繊細な子じゃ、やっていけないんじゃないか?」
「そう思うでしょ? 私がやりたい通信教育は、こういうやつなの」
昇子は例の広告を父にも見せた。
「……なんか、煌びやかな絵が付いているんだな。うちの生徒にも、こういう感じのイラストが書かれた英単語帳を持ってた子がいたような……」
父はそれを手に取ると、ぽかんとした表情を浮かべる。
「最近の中学生向け学習教材はこういう感じのやつが増えて来てるの。教師やってるパパなら分かるでしょ?」
昇子は父の目を見つめながら問いかけた。
「ああ、見たことはあるから。六月号から来年三月までの十ヶ月分一括払い、十万八百円か……塾に行って成績が上がらなかった損失と、通信教材を利用して上がらなかった損失とを考慮すると……通信教材の方がいいかもな」
父はほんわかとした表情で意見する。
「灘本先生……」
母は困惑した。彼女は当然、昇子を塾へ行かせたいと思っているからだ。
「やったぁっ!」
昇子は嬉しさのあまり、ガッツポーズを取った。
「でも昇子、もし期末テストで四〇〇いかへんかったら、今度こそ烈學館に通ってもらうわよ」
「分かったよ、ママ」
「灘本先生も、それでいいですね?」
「……うん」
父は気弱に返事する。
灘本家は、かかあ天下なのだ。けれどもノートパソコンは父の部屋に一台だけ所有されてある。昇子はそのパソコンを利用して例のホームページを開いた。スクロールバーを下に移動させると応募フォームが現れる。昇子は※で表示された郵便番号・住所・メールアドレス、氏名・電話番号・学年・年齢・第一志望校・希望の講座、得意教科と苦手教科という必須項目を全て入力し、送信ボタンを押した。
それからすぐに、入力したメールアドレス宛に自動返信メールが送られてくる。その本文中にお礼のお言葉と、振込口座番号と支払い期日が記されてあった。
「帆夏、うまく説得出来たよ」
『おう、そりゃよかったじゃん』
夕食後、昇子は自室に戻るとさっそくスマホで帆夏に報告した。
『おめでとう! ワタシとしてもすこぶる嬉しい限りです』
続いて学実に、
『やったね昇子ちゃん、烈學館に行かされずにとりあえずは済んで』
そして森優にも部活中からの経緯を伝えておいた。
翌日金曜日、父が銀行にて教材代金を入金し、支払い完了。
あとは商品が届くのを待つだけとなった。
「昇子、今日英語のテスト返って来たんでしょ?」
「うっ、うん」
「見せなさいっ!」
母が厳しい表情で要求している。
「分かったよ」
昇子はしぶしぶ英語の答案用紙をカバンから取り出し、恐る恐るローテーブルの上に置いた。
「……三九点。前より下がっとうやない。何が九三あるよ、位が逆やない」
母は答案の点数欄を眺め、眉をクイッと曲げたのち、ため息を漏らした。
「まあ、その、平均も……」
「平均は関係ないの。こうなることは予想出来とったわ。森優ちゃんは何点やったん?」
「……九六点」
昇子は少し間を置いて、躊躇うように伝えた。
「ほらね、出来る子はどんなに問題が難しくなって平均点が低くなっても良い点取るでしょ。森優ちゃんの点だったら烈學館行き回避出来たのに残念ねぇ。昇子、ママ明日、烈學館に申し込んでくるから」
母はニカッと微笑みながら告げた。
「まっ、待ってママ。塾に行くよりもさぁ……その……通信教育で、いいんじゃ、ないかなぁっと」
昇子は恐る恐る希望を伝えてみる。
「通信教育ってあんた、小学校の頃、ポ○ーと進○ゼミととってあげたけど、全然やらなかったじゃない。どうせ長続きしないに決まっとうわ」
呆れ顔を浮かべられ、予想通りの反応をされた。
「今度は違うのっ! テキストに、美男美女キャラが描かれたやつで……これ、なんだけど」
昇子は焦るように早口調で説明し、プリントアウトした例の広告を取り出してローテーブル上に置いた。
「なんよこれ? オタク系アニメの広告やないの」
またも予想通り、母に険しい表情で突っ込まれた。
「違うのっ! これは、歴とした主要五教科、高校受験対策用の学習教材なのっ! 最近は表紙や中身にカッコかわいい男の子や、かわいい女の子の絵が描かれた学習教材も増えて来てるんよ」
昇子は母の目を見つめながら強く主張する。
「そうなの?」
母はきょとんとなった。
「私がカッコかわいい男の子やかわいい女の子の絵が描かれたアニメやマンガが大好きなことはママよく知ってるでしょ。私、こんな素敵なイラスト付きの学習教材なら、絶対やる気になれるから。これ、やらせて、お願いっ!」
昇子は土下座姿勢になり、懇願する。
「うーん、あんたがそこまで言うのなら……」
母が教材広告を苦笑顔で眺めながらこう呟くと、
よぉし、いいぞぉ。
昇子の口元が緩む。
「パパに相談してからね」
母は続けてこう告げた。
「やっぱりそう来たかぁ」
瞬間、昇子はがっかりした表情を浮かべた。すぐにOKというわけには行かなかった。
それから三〇分ほどのち、
「ただいまー」
昇子の父が帰ってくる。七三分けで眼鏡をかけ、痩せ型。見た目通りの気弱な性格で、優利子のオタク趣味もジャ○ーズやE○ILEなんかに嵌るよりは健全だろうってことで快く容認してくれている寛容で心優しいパパだ。頼りない感じはするけれど、私立中高一貫校の理科教師を勤めていて、生徒や同僚の先生方から高い好感と厚い信頼を集めているみたい。
「灘本先生、昇子がね、塾じゃなくて通信教育で勉強したいって言うんよ」
母はキッチンへやって来た夫に、やや困惑顔で伝えた。
灘本先生:昇子の母が夫を呼ぶ時は、職業柄からかいつもこう呼んでいるのだ。
「そっか。まあ、塾に行けば成績が上がるという保証はないからね。しかも烈學館だろ。そこって相当厳しい塾らしいし、昇子みたいな繊細な子じゃ、やっていけないんじゃないか?」
「そう思うでしょ? 私がやりたい通信教育は、こういうやつなの」
昇子は例の広告を父にも見せた。
「……なんか、煌びやかな絵が付いているんだな。うちの生徒にも、こういう感じのイラストが書かれた英単語帳を持ってた子がいたような……」
父はそれを手に取ると、ぽかんとした表情を浮かべる。
「最近の中学生向け学習教材はこういう感じのやつが増えて来てるの。教師やってるパパなら分かるでしょ?」
昇子は父の目を見つめながら問いかけた。
「ああ、見たことはあるから。六月号から来年三月までの十ヶ月分一括払い、十万八百円か……塾に行って成績が上がらなかった損失と、通信教材を利用して上がらなかった損失とを考慮すると……通信教材の方がいいかもな」
父はほんわかとした表情で意見する。
「灘本先生……」
母は困惑した。彼女は当然、昇子を塾へ行かせたいと思っているからだ。
「やったぁっ!」
昇子は嬉しさのあまり、ガッツポーズを取った。
「でも昇子、もし期末テストで四〇〇いかへんかったら、今度こそ烈學館に通ってもらうわよ」
「分かったよ、ママ」
「灘本先生も、それでいいですね?」
「……うん」
父は気弱に返事する。
灘本家は、かかあ天下なのだ。けれどもノートパソコンは父の部屋に一台だけ所有されてある。昇子はそのパソコンを利用して例のホームページを開いた。スクロールバーを下に移動させると応募フォームが現れる。昇子は※で表示された郵便番号・住所・メールアドレス、氏名・電話番号・学年・年齢・第一志望校・希望の講座、得意教科と苦手教科という必須項目を全て入力し、送信ボタンを押した。
それからすぐに、入力したメールアドレス宛に自動返信メールが送られてくる。その本文中にお礼のお言葉と、振込口座番号と支払い期日が記されてあった。
「帆夏、うまく説得出来たよ」
『おう、そりゃよかったじゃん』
夕食後、昇子は自室に戻るとさっそくスマホで帆夏に報告した。
『おめでとう! ワタシとしてもすこぶる嬉しい限りです』
続いて学実に、
『やったね昇子ちゃん、烈學館に行かされずにとりあえずは済んで』
そして森優にも部活中からの経緯を伝えておいた。
翌日金曜日、父が銀行にて教材代金を入金し、支払い完了。
あとは商品が届くのを待つだけとなった。