「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?

「本の虫」

「こんにちは」

 エリーザたちに挨拶をすると、彼女たちはやっとわたしの存在に気がついた。

「まあっ、アイ様」

 エリーザが言った。彼女の瓶底のメガネの奥で、目が丸くなっている。

「これは、バッハシュタイン公爵令嬢」
「こんにちは、シェーナー伯爵夫妻。お元気そうですね」
「お蔭様で」

 夫妻が警戒しているのを肌で感じる。

 彼らは、わたしになにをされるのかと考えて戦々恐々としているに違いない。

「話しがきこえてしまったの。エリーザ。あなた、せっかくのチャンスを逃すつもり?」
「『本の虫』のわたしが皇太子妃に選ばれるわけがありません。ですから……」
「バカね、あなた。ここに来た真の目的を忘れたの? あなた、一番大事なことを忘れているわ。バカで世間知らずで、なにより本の良さをしらない愚か者のせいで大事なことを蔑ろにしてはいけないわ。そこは割り切って真の目的を追求すべきだと思うのだけれど」

 正直なところ、彼女の真の目的など知らない。あくまでも推測をしているにすぎない。

 その瞬間、彼女がハッとした。
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