「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
 アポロニアは、わたしが推測していたよりもかなりひどく虐められていた。

 彼女から彼女自身の身に起こってた様々なことをきいた瞬間、すくなくともわたしはそう感じた。

 だけど、彼女自身はそう感じてはいないみたい。

「わたしってグズだから、ぶつかられても仕方がないわよね」
「わたしは、要領が悪すぎるから叱られて当たり前よね」
「みんなの足をひっぱっているんですもの。カサンドラなんて器量も頭も性格もいいのに、わたしのせいで評価が悪くなっているかもしれない。だから、だんだん気の毒になってくるの。先生たちもわたしだけ特別に教えたり熱く語ったりして、苦労をかけているし」

 ちょっ……。

 アポロニア。あなた、人のよさにさらに磨きがかかっているんじゃない? というか、前向きでいいようにとらえすぎていない?

 さすがのわたしも唖然としてしまった。

 どこをどう感じたらそんな解釈になるのかしら?

 謎すぎる。

 世の中のヒロインってこんな感じなのかしら?

 よく考えたら、ヒロインってたいてい「良い人」ですものね。前向きで物事をいいようにとらえて、自分にも他人にも明るくやさしく接する。ついでにちょっとか弱くて。
 そのか弱さは、同性からは虐めや蔑みの対象になるけれど、異性からは「おれが守ってやらねば」と思わせるようなもので、ついつい助けたりかばったりしてしまう。

 小説やお話に出てくるヒロインの半分くらいは、そんな「良い人」ではないかしら。

 そうよね。だからこそ、コルネリウスも彼女に夢中なのよね。

 わたしも彼女みたいに「良い人」だったら、コルネリウスもすこしはわたしのことを……。

 そんなことを考えながら、紅茶をすすっていた。

 アポロニアの部屋のテラスでのことである。
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