「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?

ほんっとバカバカしい

「ブハッ!」

 ショックのあまり、口に含んだばかりの紅茶をふきだしてしまった。

「まあっ! アイ、大丈夫? お茶が熱すぎたかしら?」

 アポロニアは、室内に駆け込んだ。

 彼女は、子どもの頃から足が異常にはやい。皇宮内で追いかけっこやかくれんぼをしたとき、ものすごいはやさで逃げたり追いかけてきたりしていた。

 いまもそう。瞬きする間もなく室内に入って来たかと思うと、タオルを持って戻って来た。

 彼女のシュレンドルフ伯爵家は、このヴェルツナー帝国建国時より続く名家の一つで、聖なる力を受け継いでいると言われている。

 それはともかく、彼女に乗馬服の上着やズボンを拭いてもらいながら、あらためて誓った。

 ぜったいに彼女とコルネリウスをくっつけ、しあわせになってもらうのだと。



 わたしが修行に参加するようになっても、マイペースすぎる「良い人」は、やはりいつも先生たちやカサンドラとその取り巻きたちに虐められたりかわかわれている。

 カサンドラとその取り巻きたちは、わたしがいないところでやるのである。

 だから、つねにアポロニアについていなければならない。

 だれかとつるむのがなにより嫌いなわたしが、である。

 だけど仕方がない。



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