「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「アポロ、そんなことはないわ。コルネイだって、通り一遍のことはちゃんと出来るし、男らしいところもある。フリッツに負けてはいない。コルネイは、フリッツ以上に出来る男よ。わたしが一番よく知っている」

 思わずコルネリウスを擁護してしまった。そんなつもりはなかったのに。

 その瞬間、アポロニアがニヤッと笑った。そうと認識した瞬間、「もうっ! 『孤高の悪女』は素直じゃないし、面倒くさいわね」と言うなり、両手でわたしの肩を押した。

 彼女らしくない力の強さに負け、二、三歩よろめいてしまった。

「おっと」

 なんとか転ばずにすんだのは、コルネリウスが抱きとめてくれたからだった。

「うれしいよ。きみがそんなふうに評価していてくれていたなんて。『イエス』ってことでいいよな? 後悔はさせない。それと、胸やけになるほどふかし芋のバター添えを食わせてやるから」

 そのささやき声とともに、彼の唇が迫って来た。まだ体勢を整え直していないその不意打ちに、なんの抵抗も反応も出来なかった。

 不覚にも唇を彼のそれにふさがれてしまった。

 わたしの初めての口づけ……。

 さらに不覚にも、いつ終わるとも知れないその口づけにうっとりしてしまった。
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