闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 自由と小手毬を引き離す、と口にした加藤木の表情は硬い。
 それよりも彼女はいま、さりげなく“敵”と言わなかったか?

「加藤木、お前……」

 けれども陸奥が声をかけるよりも先に、加藤木は小手毬の部屋の扉を勢いよく開いていた。
 病室で待機していた看護師の楢篠がぎょっとした表情で加藤木と陸奥を見つめている。
 小手毬はすぅすぅと気持ちよさそうに眠っている。
 
 
「加藤木先生? え?」
「楢篠。すまないが車椅子の確認を頼む」
「――はっ!」


 何事かと慌てふためく楢篠に命令した陸奥は、病室内の数少ない荷物を集め、眠りつづける小手毬の傍へ置く。
 着替えが入った鞄、棚の上に置きっぱなしの文庫本にのど飴、枕元に置かれている優璃が作ってくれたドライフラワーのポプリ……
 バタバタ動き回っていたからか、気づけば小手毬がとろんとした瞳を開いて陸奥と加藤木を見上げていた。


「ミチノク? カトーギ? 何してんの?」

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