闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 夢うつつの表情の小手毬に、加藤木があらお目覚めねとふわふわの髪をそっと撫でる。小手毬もまんざらではない様子で加藤木のポニーテールに手を伸ばし、きゅっと握りしめながら甘く囁く。
 
「ごめんねカトーギ、リハビリお休みして」
「いいのよ~。思っていたより元気そうでよかったわ」

 ふたりの親し気な雰囲気に陸奥の表情が険しくなる。
 同性同士で戯れているだけだと理解しているものの、自由以外にも馴れ馴れしく小手毬に触れる人間がいたとは……
 嫉妬にも似た感情を持て余している陸奥を前に、加藤木がクスクス笑う。
 
「陸奥先生でもそんな顔するのね」
「何がだ」
「自覚してない分たちが悪いわよぉ。それより患者さんに事情を説明してあげたら?」
「え?」

 小手毬が陸奥の方へ顔を向ける。
 黒真珠のような潤んだ瞳が陸奥の榛色の瞳とぶつかる。
 小手毬の視線を捕らえた陸奥は動揺を抑えながら、しずかに告げる。


「転院だ」
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