闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 地域医療センターでは診療領域で問題があるからと、茜里を勧めたのはきっと天の父親だろう。彼は小手鞠を保護するという名目のもと、転院を強要させたに違いない。死にたがりの彼女を生かしつづけるため。
 ――そして、あわよくば彼女の腹に雨龍の子を孕ませるため。
 前時代的な信仰が息づくこの地域では、選ばれし女神の器に優れた男を差し出すという奇妙な風習が残っている。子を為せば一族の栄華が約束され、諸神の一員として迎えられる……けれど、諸神を裏切った人間との間に子を為させることは、この世の終焉に値するとも信じられている。

「ああ」
「……諸見里に気をつけて。彼らに奪われることだけは避けなくてはいけない。それならば雨龍、あなたが」
「よせよ。十八の小娘、しかも高次脳機能障害が残ってるんだろ? 俺にそんな趣味はない」
「……どうかしら。最悪の事態としてよ、それは」
「最悪の事態に陥ったら、ねえ?」
「あの狸はとりあえず器が使えるか判断したいだろうから……そうじゃなければあたしを放逐した意味がない」
「俺が拒否したら?」
「別の人間にお鉢が回るんじゃない? そうねぇ……」
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