闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 ふと天の脳裡に浮かんだのは彼女の担当医としてここまでついてくることになった同僚の麻酔科医、陸奥允だ。
 彼はまだ、彼女の存在意義を知らない。この異質な病院に毒されて、または狸に唆されたら、彼は諸神から追われる彼女を守る騎士に成り得るだろうか。

「うちから担当医として麻酔科医が来るわ。彼を利用するか……」
「事情を知らない一般人を巻き込むのもどうかと思うが……まぁ、心に留めとくよ。そうは言っても狸の命令には表立って逆らえねぇからな……なるべく彼女が苦しまないよう、考えてはおく」
「雨龍」
「けど、狸も強情だよな。そこまでして彼女を……女神を赤根の家に縛り付けようとするなんて」
「それに気づいたから、桜庭蘭子は雪之丞が隠していた娘を切り捨てたのよ。彼女が正常なの……そしたら亜桜の人間は堂々と狸に取り入ったってわけね」

 養い親も生き延びるためにはもはや手段を選べないということだろう、亜桜家の人間は治療費を打ち切った桜庭家に棄てられたことで赤根家の「秋」へ娘を差し出すことにしたのだ……もしかしたら諸見里本家との間で揺れ動いていたのかもしれない。
< 155 / 255 >

この作品をシェア

pagetop