闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 どちらが娘の幸せに繋がるのかを天秤にかけて――どっちにしろ、過酷な運命に変わりはないけれど。

「ふぅん。諸見里がこのまま黙っているとは思えないけどね」
「こればっかりは何とも言えないわ。引き続き動向を見張っておく」
「……諜報役も大変なこと」
「実行部隊より気が楽よ」

 ふん、と鼻で笑って天は雨龍とすれ違う。狸にもひとこと報告しておいた方が良いだろう。きっと彼のことだから知っていることが殆どだろうが。

 ――本家の人間より、分家の人間の方が何をしでかすかわからない。

 彼女を復讐の道具にしようとしている諸見里本家から引き離したのはいいけれど、事情を理解していない分家の彼からしたらきっと、混乱しているに違いない。
 引き離されたと知ってもきっと彼は諦めないだろう。死にかけた彼女を救うため、過酷な道を選んだあのときのように。

「悪役でいたいわけじゃあないんだけどな……最悪の事態だけは避けてほしいわ」

 もし、亜桜小手鞠が諸見里自由の子を孕んだら。諸神を裏切った、諸神を見限った里の血をふたたび交えてしまったら。
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